標準化

ゆるやかな標準でつながる方法

「つながる工場」の実現のための技術的なキーワードは、ゆるやかな標準であり、そのためのリファレンスモデルです。人工物を対象とした第一種のシステムとは異なり、人の要素を多分に含む第二種のシステムでは、厳格な標準ではなく、ゆるやかな標準によって、それぞれのしくみの個別性を許容し、ノウハウなどを内在させた上で、その外側にある共通部分においてつながるという構成が望まれます。

以下の例は、異なる2つの業務をつなげるために、標準仕様を持ち出し、それに業務側を合わせるアプローチと、それぞれの業務の共通点をさがし、連携のための仕様を別途検討するアプローチを示しています。当然のことながら、後者のほうが、めんどうです。ゆるやかな標準化では、このめんどうな作業をできるだけ面倒でなくするために標準技術を利用します。たとえば、共通仕様を個々に作る際に、あらかじめひな形となるリファレンスモデルをいくつか用意し、それを組み合わせて作成するといった方法です。


ノウハウ(暗黙知)をICTでつなぐ


ゆるやかな標準でつながる方法

では、もう少し具体的に、ゆるやかな標準であるリファレンスモデルによって、2つの異なるシステムがつながるかについて説明しましょう。たとえば、機械加工職場の作業者が、班長または職長に作業実績を報告する場面を想定します。業務のカテゴリとしては、作業実績報告に関するアクティビティとなります。アクター(登場人物)は、作業者、および班長です。

当然のことながら、作業実績の報告の仕方や内容は、さまざまです。たとえば、一日の業務が終了したあとにまとめて報告する場合もあれば、1つの作業指示が終わるごとに行う場合もあります。報告する内容は、数量合計の場合、良品、不良品の内訳がある場合、個々の工数(時間)がある場合と、開始時刻のみの場合、あるいは利用した治具や機器、材料の状態やワークの状態などを細かく報告する場合など、さまざまです。

リファレンスモデルとして、これらを1つのアクティビティでまとめることは、おそらく不可能でしょう。しかし、こうした多様な仕事のやりかたの中で、作業者から班長へ送られる多様な情報を、“作業実績”というオブジェクトで置き換えてみましょう。すると、「作業者は、1日の業務終了後に、班長に対して作業実績を報告する」あるいは「作業者は、作業指示が完了するたびに、班長に対して作業実績を報告する」の2種類となります。

一方、作業指示の内容については、基本的には、作業が対象とする品目、数量、開始・終了時刻および時間、作業条件、作業手順などについて、指示された内容とその結果によって構成されているはずです。こうした、本来あるはずであるデータ項目を挙げておき、その中から必要なものを選択することで、だいたい6割くらいの内容はカバーできるのです。


ノウハウ(暗黙知)をICTでつなぐ

図 ノウハウ(暗黙知)をICTでつなぐ


このように、リファレンスモデルによって、その骨格の部分は表現できることがわかりました。次に、残った個別に異なる部分をどうするかが問題となります。この会社のこの現場のみで利用する場合は、残りの部分はすべてカスタマイズの対象となりますが、複数の工場や複数の関連企業で同じしくみを使いたい場合、つまりつながりたい場合は、残りの部分の中で、共通的な部分のみを切り出します。そして、たとえば2割は共通部分として採用することが決定したら、この2割はつながるための仕様として定義し、最後の2割が個別の仕様となります。

プロファイルで個別の特徴を記述する

ここで、ゆるやかな標準を実現するうえで、リファレンスモデルと並んで、もうひとつのキーワードである“プロファイル”が重要となります。プロファイルとは、機器や装置など、ネットワークにつながるしくみが、それぞれどのような機能や構造をもっているかを示す情報です。プロファイルを用いて、つながるためのモデル、つまり、先の例でいえば、リファレンスモデルを2割修正した修正履歴を、当事者間で記録しておき、さらに最後に個別の仕様に合わせるために手を加えた2割を個別に記録しておきましょう。

このように、リファレンスモデル+プロファイルのしくみをルール化することで、リファレンスモデルでは合わせきれない個別の業務の特性などを、できるだけそのままICTで置き換えることが可能となります。そして、それと同時に、プロファイルを用いて、それぞれの多様性をシステマチックに管理し、多様性を維持したまま、それぞれの業務がつながることが可能となるのです。


ノウハウ(暗黙知)をICTでつなぐ