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「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー6

【6】 中小企業に向けて、ICTの活用に関するアドバイスや、導入を後押しするメッセージを、お願いいたします。

中小企業にとって、ICTの導入はとてもハードルが高いのは事実です。ひとつの原因は、コストや効果があらかじめ見積れず、またその効果がコストに見合わない場合がおおいという点があります。また、仮にそれなりにコストに見合う仕組みであったとしても、実際に製造業の内部でICT化をすすめていく人財が不足しているという点がネックとなっています。

実際にいろいろな事例をみると、そこでいうICT化は、単なるコンピュータ化だったり、紙の帳票類のデジタル化でしかない場合も多いようです。もしそうだとすれば、まずやるべきことは、ICT化ではなく、情報の流れの見える化です。そして、すでにデータ化、システム化さえている部分があったとしたら、それらのデータの意味づけ(誰から、誰に、何を伝えるためのものか)です。つまり、ものづくりの流れ、業務の流れが、きちんとつながっており、ムダや間違いがないかを検証して欲しいとおもいます。

そしてもし、不合理な部分、非効率な部分があったら、その部分をICT化することで、すこしずつ情報の流れをカイゼンしていくアプローチがおすすめです。もちろん、これはICTベンダーや外部に丸投げすることはできません。ただ、担当者だけでは、何をやったらよいのか分かりませんので、外部のICT人材をもうまく活用し、社内の総点検をすることからはじめましょう。おそらく、いたるところにICT化のネタがころがっているはずです。

特に、肝となるのが、現在および近い将来の見える化と、さまざまなデータの蓄積と活用による付加価値化です。さまざまなデータの蓄積と利活用は、即効性がありしくみも簡単なので説明します。たとえば、工程手順や生産条件のメモ、段取り方法などの写真、お客様からの引き合い、見積り提示の履歴、などなど、情報はどこかにあるが、いざというときに検索できないものが現場にあふれています。これらをデータ化し、検索可能とすることで、現場の作業は格段に楽になり、かつお客様へのサービスレベルも向上します。こうしたデータは、資産として競争力の源泉となるのです。

こうしたデータによる恩恵が得られて、はじめて会社の中で、ICT化の意味、価値が浸透します。この順番が重要で、ICTが先だと、特に中小企業の場合は、拒絶感、抵抗感がさきにでて、挫折し、いちどこうした失敗体験ができると、次にまたはじめるときに大きな障害になります。つまり、ICTという大上段あるいは、過度な期待をせずに、現在の仕事の見える化、業務のカイゼンの延長のなかにICTをうまくとけこませることで、ほんとの意味でのものづくりとICTとの融合が図れるのだとおもいます。

そして、最後に、特に中小製造業は、スケールメリットが出にくい立場にもともといるわけですが、ICTを活用し、つながる工場が前提となった世界では、逆にグローバルに展開する上で大手である必然性はなくなり、小回りのきく中堅、中小製造業の活躍の場は広がります。あたらしい、時代での飛躍のためには、これはあるいみで大きなチャンスといっていいとおもいます。

インダストリー4.0のような大きなコンセプトやムーブメントを的確にとらえると同時に、実際のものづくりの現場を巻き込んだ流れをつくっていくためには、こうした個々の製造業における個別で現実的な問題をひとつずつ解決していき、その過程のなかで、標準化、オープン化のアプローチが有効であることを地道に伝えていくことも重要であるとおもいます。

「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー5

【5】 あらためて、日本のものづくりは、これからどのような方向を進んでいくと予測されますか。また、「つながる」ための技術は、いかなる発展を遂げていくとお考えでしょうか。

日本のものづくりは、今後10年くらいは、このままの状況で発展していくと思います。しかし、国内でのものづくりのみに意識を集中していったとしたら、ICTによって競争環境、ゲームのルールが大きく変わったときに、不幸な転機を迎えることになるかもしれません。国内だけではなく、海外で日本のものづくりをどう展開するかを徹底的に議論し、そのための技術を蓄積していく必要があります。

まず、国内でのものづくりについては、自動化や知能化をさらに進め、先端的なものづくり、グローバル・ニッチトップのものづくりの核を育てると同時に強化していき、競争力の源泉となる知的財産のブラックボックス化をしていくための拠点として多いに活用されるべきだと思います。これは、おそらくそういった方向性になるでしょう。特に、ICTに関して、組込み系ソフトウェア技術など、ハードとソフトが融合した製品化、製品とサービスが一体となったプラットフォーム化などにおいて、戦略的で高度なものづくりにシフトしていくとおもいます。

一方、中小製造業については、雇用の受け皿としての役割りではなく、高付加価値なものづくりのための小回りのきく実働部隊として、製造業全体の機能がサービスという切り口から分節化していった形に変化していくと予想しています。つまり、より多様性、不確実性への対応力として、強い中小製造業がその存在感をさらに高めていくことができるとおもっています。さらには、「つながる化」を進めることで、海外の製造業との間での製造サービスの受託なども現実的なものとなるでしょう。

こうした国内でのものづくりと対比すると、海外、すなわちグローバルにみた場合の消費地に近いところで行うものづくりについては、つながるしくみの根っこを抑えられるかどうかで、明暗は分かれるでしょう。もちろん、マイクロソフトのOSの上で、アプリを売るといったような関係も成り立ちますが、製造業の工場のオペレーションシステム(5Sなど、ものづくりの基本的な考え方としくみ)について、一方的に受け入れるだけでは、品質の作り込みはできませんし、日本のものづくりの持ち味が生かせません。

ただし、もし、こうした工場のオペレーションシステムのプラットフォームを何らかの形でコントロールすることができれば、日本のものづくりのしかたが、広くワールドワイドに広がります。そこで実際に操作している人、その会社は日本と関係がなくても、それは日本のものづくりです。そして、結果的に、そうした日本のものづくりに根差したサービスやFA機器などの関連製品のグローバル展開も非常にしやすくなるでしょう。

こうした工場のオペレーションシステム、あるいは「つながる工場」のプラットフォームに関する技術として、ひとつは技術や知財を保護し、フェアな競争環境を実現するためのセキュリティー技術があげられます。そして、2つ目は、さまざまなモノ、データ、技術、そして知財などを異なる現場、異なる企業間でやりとりしたときのトレーサビリティ技術です。そして、3つ目は、そうしたICTによって展開されるデジタルな世界と現実がしっかり対応し、現実と同期してサイバー空間が機能するためのリライアビリティ技術だということができます。

この3つ目のリライアビリティについては、いわゆる厳格な標準を適用するのではなく、緩やかな標準としてのリファレンスモデルを、それぞれの対象領域、対象問題にあわせて提案し、合意し、改良していくかが重要です。そうした緩やかな標準を、海外の企業も交えてオープンなしくみのなかで作成していくことができるようになれば、日本のものづくりがグローバルなデファクト標準として一気にひろまると期待できます。リライアビリティのためには、つねに、標準を現実にあわせて見直す柔軟な発想が必要となります。

いずれにしても、そこでイニチアチブをとるのは、ものづくりの本質をしりつくした日本の製造業の当事者たちである必要があります。ICT企業は、そうしたあらたな世界へ製造業を導くためのイネーブラ(実現手段)として、FA機器や製造設備メーカーは、ICTを活用したグローバルなものづくりのためのデータのプロバイダーとして、実際に海外でものをつくる企業を全面的にバックアップしていかなければなりません。

「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー4

【4】 日本企業の「強み」とは、どこにあるとお考えでしょうか。その個性を生かしながら、ICTとの融合を進めていくには、どのような視点が大切だと思われますか。

日本の企業の強みというよりは、日本人のものづくりに対する姿勢、価値観だとか、グループで目標を立てて結果を出す際のチームワークといった特質が、最終的に日本の製造業の競争力になっているのだとおもいます。もちろん、そうした特質を引き出し、最終的な製品の品質に落とし込む企業のしくみ、つまり組織力やマネジメント力の成果でもあります。

ただし、日本企業の本当の「強み」とは何かと問われると、実は明快な答えはありません。確かに、現場力だとか、すりあわせの技術など、日本の工場の強みを客観的に議論することは可能です。ただ、実際の現場感覚としては、これまで、日本の国策として製造業で国を豊かにしようという勢いのなかで、1億人の日本人が全員でモノをささえ努力してきた結果、追いつけ、追い越せと日々やってきた団結力、総合力の結果、気が付いたら、ここまで来ちゃった、というのが真実のような気もします。

その点でいえば、ビジョンの共有、社会的なバックアップ体制があったことが日本企業の強みであったともいえます。現在は、多様性の時代、ゆとりの時代、それぞれがそれぞれの価値観のもとに生きていく時代であって、悪く言えば、方向性が見えない時代ともいえるとおもいます。ひとりだけ、違うことをやると目立つし、現状もそこそこ居心地がいいので、保守的な傾向が強まります。ものづくりが、ICTで大きく変わるというのも、「そうかもしれないが、そうでなくあって欲しい」というのが多くの人の本音かもしれません。つまり、かつての強みは今は通用しないということになります。

しかし、だからといって、立ち止まっていえは、すべてを失う可能性があります。どうすれば、ICTを活用したものづくりが拡大していくか。ひとつの取り組みとしては、ものづくりを担う人材、あるいはものづくりにたずさわる人の層を拡大することだとおもいます。つまり、広い意味でのものづくり(関連サービスもふくめた)人工を増やすことです。従来から、工場の現場でものづくりの文化を体現している人に加えて、ICTが生活の一部となっている人びととがその現場に加わり、外部者として格闘しながらその土俵をずらしていくという方法です。

そのためには、一般の人から見たときに、ものづくりが遠い存在、工場の内部で閉じた(3K的な)イメージから、オープンで、デジタルで、クラフト的で楽しい世界に映るように心がけるとともに、ICTでその物理的な距離を近づける必要があるでしょう。3Dプリンターの技術はその意味で非常に重要ですし、シミュレーション技術や、IoT技術が今後、さらに発展し、コストが大幅にさがれば、オフィスにいながら、海外の工場のリアルタイムなオペレーションに実質的に参加することも、決して遠い先の話ではないと思います。

「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー3

【3】 例えば、中小企業のものづくりとICTが融合した例として、どのようなケースがあるのでしょうか。その内容や成果、あるいは表面化した課題について、お聞かせください。

生産現場のICT化、あるいはものづくりとICTの融合の結果として、どのような姿が望ましいかについて、おそらくまだ、当事者も、支援する側も、共通の合意にいたってはいない気がします。特に中小企業の場合、それぞれの現場がもっている主体性や小回りのよさ、そして何年にもわたって作り続けることによるノウハウの蓄積などをICT化することはそう簡単ではありませんし、そうすべきかどうかもまだ議論の余地があります。

キラリと光る部分をもった中小企業がある一方で、きわめて生産性の低く、管理レベルについても、お世辞にもほめられない膨大な数の中小企業が存在しているのも事実です。整理整頓などの5Sはもとより、ICT化の話を持ち出す前に、そこに至るまでにやるべきことがやまほどあるのが現状です。生産技術や加工技術に優れた企業だからといって、ICT化がスムーズに進む保証はまったくありません。

優れた中小製造業が、ICTを利活用した画期的な企業になるプロセスを何社か支援したことがあります。それらの企業は、たとえば、生産管理のしくみによって、これまでいったい今何がどうなっているのかわからなかった現場が、ICT化によって見える化され、事務工数も半減し、実際に売り上げも大幅に伸びました(1社はものづくり大賞の特別賞、もう一社は認定企業として表彰)。ただ、私が強調したいのは、こうした結果ではなく、そこに至る紆余曲折の中で、日頃はあまり考えてこなかった業務プロセスや他の業務との連携を議論し、実際にいろいろ変えながら最終形にいたったという過程の部分です。つまり、ICT化された結果としてのシステムではなく、ICTという道具を使いこなすために組織そのものが学習し、すこしずつ変わっっていったというプロセスが重要で、それによって強い体質ができていったのだと思っています。(このあたりは、日刊工業新聞社の工場管理という雑誌に2013年4月から12か月間の連載記事がありますので、よろしければ送ります。)

このような事例は、やはり一部の意識の高い中小企業にかぎられ、財務的にも人財的にもめぐまれた会社に限られるということもあるとおもいます。おなじやりかたが、他のごく普通の中小企業に適用できるとはおもっていません。そこで、現在、「つながる町工場」というプロジェクトをやっています。これは、板金加工を得意とする同業者が3社あつまり、それぞれの生産プロセスや業務プロセスをお互いにオープンに見せ合って、共通点と相違点を見極め、共同で業務ソフトウェアをクラウド上で構築しようというものです。同業ですので、競合する部分も若干ありますが、それよりも、相互に切磋琢磨して、お互いにいい部分を学習する場として、月に2回以上の会合を開いています。

このプロジェクトでは、開始から3カ月後に業務ソフトウェアは完成し、現在は、実際の生産工程を登録し、受注内容や個別の業務データをシステム上で運用しながら、すこしずつ問題点をあきらかにしている段階です。参加企業は、お互いに入力されたデータや、業務の進め方をみながら、自分の会社の業務を日々カイゼンしています。こうした取り組みによって、およそ6割の業務プロセスは共通化でき、残りの2割は個別にカスタマイズし、後の2割は人間系で対応するという形になりそうです。つまり、ICTを活用しながら、それぞれの個別の仕事のしかたや生産のノウハウは固有なまま相互に連携することができるという事例です。

おそらく、板金以外の分野にも、こうしたアプローチは有効でしょう。そして、こうした取り組みをとおして、ものづくりのテンプレート(これをリファレンスモデルと呼んでいます)が増えていき、それによって、ソフトウェアを提供するベンダーやSI企業も、より安価で効果的なツールやインフラを提供することになると期待できます。実は、この取り組みは、リファレンスモデルをもちいた「つながる工場」のひとつの典型例なのです。

「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー2

【2】 IoTを推進し、「つながる工場」を実現することで、具体的にどのようなメリットや、生産現場の変革を期待することができるのでしょうか。従来の「日本的なものづくり」と比較した場合、大きくどのような点が異なるのでしょうか。

「つながる工場」が目指すものは、工場と工場がつながるだけではなく、工場の内部を構成していた生産ラインや現場でスキルをもった技能者、そしてさまざまな管理業務や技術、アイデアが、時間的あるいは場所的な制約を超えてつながる姿です。また、「つながる工場」によって、工場でつくった部品や製品を使う最終消費者と、生産現場とがつながり、つくり手の気持ちと、使い手の気持ちまでもがつながります。

こうした「つながる工場」を実現するには、IoTなどの新しい技術を積極的に取り込むことも重要ですが、その前提として、生産プロセスのオープン化、工場の内部のオープン化が欠かせません。まさに胸襟を開いて、相手と接することで、その先の新たな信頼関係が構築できるのです。たとえば、中小製造業のコマ対戦がここ数年とても盛り上がっています。共通のルールのもとで、それぞれの町工場が、切削加工、表面処理、素材の改良などに挑みます。プロセスをオープンにすることで、いい意味での競争が生まれ、技術が進歩し、そしてそれを目当てとした需要が喚起されます。

インダストリー4.0では、生産ラインの自動化、機械そのものの知能化がシンボリックに取り上げられることが多いのは事実ですが、自動化、知能化はあくまで人の置き換えでしかありません。工場を経営する立場からすれば、結果的に高コストとなり、それが存続できる領域は限定されることになるでしょう。おそらくインダストリー4.0の本質は、ものづくりの組織における人を含めた自律的な業務の連携、ものづくりの知識や知恵の効果的な生成と活用において、データの持つ役割が革命的に変化するという点だとおもっています。

つまり、ものづくりが今後ますます複雑化していくなかで、これまでデータは意思決定のための脇役であったものが、もはやデータがなければ意思決定ができない状況になるのです。たとえば、スマホを常時持ち歩いている高校生は、もはやスマホなしには友達関係も築けなくなりつつあるのと同じことがものづくりの世界で起きると思ってください。

ただし、だからといって、日本的なものづくりを変える必要はないし、変わらなければならない理由もありません。ただ、必要なデータを必要なときに得られない場合、つまり、つながるチカラがよわい会社や現場は、おそらく相当苦労するであろうということに、多くの責任ある立場の人びとができるだけ早く気付き、対応をとっておく必要がありそうです。

解説「IoTの可能性と課題」

「つながる工場」インタビュー2

【2】 IoTを推進し、「つながる工場」を実現することで、具体的にどのようなメリットや、生産現場の変革を期待することができるのでしょうか。従来の「日本的なものづくり」と比較した場合、大きくどのような点が異なるのでしょうか。

「つながる工場」が目指すものは、工場と工場がつながるだけではなく、工場の内部を構成していた生産ラインや現場でスキルをもった技能者、そしてさまざまな管理業務や技術、アイデアが、時間的あるいは場所的な制約を超えてつながる姿です。また、「つながる工場」によって、工場でつくった部品や製品を使う最終消費者と、生産現場とがつながり、つくり手の気持ちと、使い手の気持ちまでもがつながります。

こうした「つながる工場」を実現するには、IoTなどの新しい技術を積極的に取り込むことも重要ですが、その前提として、生産プロセスのオープン化、工場の内部のオープン化が欠かせません。まさに胸襟を開いて、相手と接することで、その先の新たな信頼関係が構築できるのです。たとえば、中小製造業のコマ対戦がここ数年とても盛り上がっています。共通のルールのもとで、それぞれの町工場が、切削加工、表面処理、素材の改良などに挑みます。プロセスをオープンにすることで、いい意味での競争が生まれ、技術が進歩し、そしてそれを目当てとした需要が喚起されます。

インダストリー4.0では、生産ラインの自動化、機械そのものの知能化がシンボリックに取り上げられることが多いのは事実ですが、自動化、知能化はあくまで人の置き換えでしかありません。工場を経営する立場からすれば、結果的に高コストとなり、それが存続できる領域は限定されることになるでしょう。おそらくインダストリー4.0の本質は、ものづくりの組織における人を含めた自律的な業務の連携、ものづくりの知識や知恵の効果的な生成と活用において、データの持つ役割が革命的に変化するという点だとおもっています。

つまり、ものづくりが今後ますます複雑化していくなかで、これまでデータは意思決定のための脇役であったものが、もはやデータがなければ意思決定ができない状況になるのです。たとえば、スマホを常時持ち歩いている高校生は、もはやスマホなしには友達関係も築けなくなりつつあるのと同じことがものづくりの世界で起きると思ってください。

ただし、だからといって、日本的なものづくりを変える必要はないし、変わらなければならない理由もありません。ただ、必要なデータを必要なときに得られない場合、つまり、つながるチカラがよわい会社や現場は、おそらく相当苦労するであろうということに、多くの責任ある立場の人びとができるだけ早く気付き、対応をとっておく必要がありそうです。

「つながる工場」インタビュー

「つながる工場」インタビュー

以下のインタビューは、経済産業省広報誌 『METI Journal』2015年4・5月号の第1特集 「インダストリー4.0」の取材における「“つながる工場”の必要性」や、「中小企業における導入事例」「日本のものづくりが目指すべき方向性」などについての質問事項と、その回答を収録したものです。

(インタビュー回答者:法政大学デザイン工学部システムデザイン学科 西岡靖之)


【1】 近年、注目されているキーワード「つながる工場」。日本のものづくりは、いま、どのような転換期を迎えていると思われますか。また、その背景には、いかなるニーズや、社会構造の変化があるのでしょうか。

新興国の急激な発展による市場の拡大と同時並行で、消費者のニーズの多様化や、技術進歩の不確実性がますます顕著になりました。これにより、中小企業のみでなく、大手の製造業であっても単独では生き残れない時代となりました。また、製品のデジタル化、ソフトウェア化とともに、生産プロセスのデジタル化、ソフトウェア化が急速に進んでいます。さらに、製造業とサービス業の境界もかぎりなくなくなりつつあるというのが現状です。

こうしたなかで、必然的に、個々の要素技術による競争力とあわせて、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンによって他の企業と“つながるチカラ”が重要となってきています。要素技術はそれほど変わらなくても、つながり方が変わるだけで、新しい革新的な製品やサービスが生まれる場合があるからです。この傾向は、設計プロセスや生産プロセスがデジタル化、ソフトウェア化することでさらに加速し、劇的なものとなるでしょう。

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提言2 「イニシアチブ」の勧め

11. サプライチェーンからエンジニアリングチェーンへ

10年くらいまえまでは、“製造業の復権”や“産業の空洞化”といったキーワードがよく議論されていました。長く続いたデフレ経済の中では、もはやこうしたことばは肌に合わなくなったのか、あるいは解がない議論にもう疲れてしまったのか、ここ数年はあまり聞こえませんでした。そんな中、欧米に端を発した製造業の未来に関する最近の一連の議論は、IoTやM2Mなど新しいキーワードの効果もあり、ある意味で、とても新鮮です。そして、日本の製造業にも未来への変革が求められているとすれば、この小論は、これまでの製造業がこれまでのやり方で復権するのではなく、新しいタイプの製造業に生まれ変わるための試論ということもできます。

ドイツ政府も、米国政府も、膨大な予算をつかって自国の製造業の競争力強化のためのプログラムを練っています。欧州には欧州の事情にあった欧州流のやり方があり、北米には北米流のやり方があります。日本流、あるいはもう少し範囲を広げて、東アジア流のやりかたで、少なくとも東アジア圏においてイニシアチブをとらなければなりません。

インダストリー4.0のコンセプトを見習うところは見習うとして、ただ、必要以上にその内容に振り回される必要もないでしょう。自分自身の骨格が出来上がる前に、あまりにも回りの調査ばかり進めると、そもそも自分にとって、なにが問題で、何がやりたかったのかが見えなくなってしまう危険性もあります。いっそのこと、やりたいこと、やらなければならないことをゼロベースで議論し、その本質を見極めた上で、あとは見切り発車し、詳細はその都度、走りながら軌道修正していくという方法もありだと思います。

ものづくりにおいて、ICTをどのように活用するかは、これまでも重要な課題としてあげられてきました。ここにきて、センサー技術、ネットワーク技術の急激な進歩により、ものづくりに関するきめ細かなデータが安価に入手可能となったことにより、こうしたデータを用いた新たな展開が見込まれます。ただし、データはデータであり、それらが必要なときに必要なところへ必要な形で提供されなければ価値にならないのです。つまり、新たなものづくり、しくみつくりを提案し、現実のものづくりに役立ててはじめて新たなイノベーションが完成します。

海外では、インダストリー4.0をさらに進めるための国際標準の策定作業も、徐々に進められています。それぞれの企業の利益を守り、新たな製品を普及させていくという観点からの国際標準はもちろん重要ですが、同時に、新しい価値観や基盤となるルールを、守りではなく攻めでもなく、広くグローバルなものづくりの発展のために提案し、普及させていくという役割も、ものづくり大国である日本の使命であるのではないでしょうか。

この小論では、「つながる工場」研究分科会としてのこれまでの活動の中で得られた知見をもとに、日本のものづくりが未来へ向けて、新たな一歩を踏み出すために必要となる考え方についてまとめました。そして、いまひとつ重要なことは、考えるだけではなく、実際に一歩を踏み出すアクションです。Industrial Value Chain Initiativeは、学会の研究分科会という枠を超えて、ものづくりを支える多くの企業や団体の共通の理念として、こうした新たなアクションを支えていきたいと思います。

参考文献

  • 5)   IEC/TC65/JWG5国内委員会,製造オペレーションマネジメント入門~ISA-95が製造業を変える!,ものづくりAPS推進機構(2015)
  • 7)   科学技術振興機構研究開発センター,次世代ものづくり~基盤技術とプラットフォームの統合化戦略~,科学技術振興機構(2014)

提言2 「イニシアチブ」の勧め

10. 生産技術と生産管理の統合モデル

日本のものづくりの構造的な転換が求められています。原材料を買って、製品に加工して、そして売るという当初はシンプルな行為で構成されていた製造業が、そのしくみが複雑さを増すにつれて、徐々に機能分化していき、ついには、モノと作りが分断されてしまったようです。単にコストと効率だけを追求する生産現場は、すこしずつ面白味に欠けたつまらないものになってしまうような気もします。非常に抽象的な言い方をすれば、モノと作りが一体となったユニットが、アメーバ―のように有機的に結合した、ダイナミックなものづくりの組織はできないでしょうか。若者から見ても、カッコいい生産現場、輝きのある生産現場であり続けるためには、“つくり”だけではなく“ものづくり”がセットになって、決して離れずにいる必要があると感じます。

そこへ至るための一つの手がかりは、最終的な製品を作るという立場と、製品を作る“しくみ”を作るという立場の使い分けです。工作機械を自分たちで作る、生産ラインのしくみを工夫するなど、からくりの世界にも通じたものづくりが、本来の生産現場にあるはずです。JSME-MSDモデルが示すような、工程設計、生産技術、生産準備といった機能を、人中心に極め、それを生産現場と一体となって進めていくということは、輝かしい現場を再構成するためのひとつの有効な手段となりそうです。

もうひとつの有効な切り口は、やはりICTによるデジタル化でしょう。ものづくりの世界は、アトムの世界であり、これに対する情報の世界は、ビットの世界と言われています。両者は、そもそもよって立つ原理、原則が異なるのです。工場で実際にモノを加工するのはアトムの世界です。工場から消費者へ製品を届ける物流の世界も、物理法則が支配するアトムの世界です。一方、情報社会におけるビットの世界は、物理法則に支配されません。情報は無限に複製でき、一瞬で空間を移動できます。ビットとアトムが融合したサイバーフィジカルな世界は、おそらく現在では想像できないことがつぎつぎと可能となるかもしれません。

ここで、議論となるのが、そうした世界を、だれが先頭をきって切り開くのか、つまり、イニシアチブを誰がとるかということです。現在のところ、ICTは欧米企業が完全に先行し、日本企業はそのキャッチアップに追われています。一方、ものづくりの世界では、日本企業に一日の長があります。つまり、ICTとものづくりの融合領域を誰が切り開くのは、日本企業である可能性も十分にあり得るのです。ビット側がアトムの世界を理解するのが早いか、それと比較して、アトム側がビットを凌駕するのが早いかです。

工場の側、つまりアトム側にとって、すでにビットの世界、つまりICTの世界は、情報システムの利活用という意味で、馴染みのある領域といえます。ただし、ICTの世界の怖さは、相手とつながってはじめて機能するという点なのです。たとえば、電話機は、通話の相手が同じプロトコルでなければ会話は成立しません。ネットワーク外部性と呼ばれる性質によって、つながる相手が増えるほど、その製品の利用価値は高まります。また、デジタルデータやプログラムなどは、複製コストが限りなくゼロに近付けられるため、製造原価と販売価格の関係を、これまでとはまったく異なる発想でとらえる必要があります。さらに、開発したICTの資産価値を維持するために、知的財産の管理が極めて重要となります。

この知的財産の管理技術は、“エコシステム”の形成と密接に関係しています。製品がそれ単独では機能し得なくなり、より大きなシステムの中のいち部品として位置付けられることが多くなっている中で、ある程度内部のしくみを公開することなしに製品は市場に普及しません。この傾向は、つながるための機能が、ハードウェアからソフトウェアに徐々にそのウェイトがシフトしていることにより、ますます顕著となっています。

製品と同様につながる工場も、他の工場とつながってはじめてパフォーマンスが最大に発揮できます。つながらなければ、工場にある高価な設備や機械は何の役にも立ちません。つながる工場をつなげている多くの部分は情報であり、広い意味でのソフトウェアなのです。サプライチェーンはもちろんのこと、設計プロセスや保全プロセスなどのエンジニアリングのチェーンにおいて、今後デジタル化がすすみ、さらにつながる工場に関する駆け引きがこれから激化していくでしょう8)。

ネットワーク外部性が支配する世界では、先行した者が莫大な利益を得ることになり、フォロワーにはもはや市場をコントロールする力は残されていません。半分アトムを引きずっているものづくりの世界では、そこまで極端ではないとしても、しかし今後、これからのICTとものづくりの融合のプロセスにおいて、フォロワーに徹した場合、非常に不利なゲームのルールで戦わざるをえないという状況となる可能性は大いにあります。

こうした状況を踏まえて、「つながる工場」研究分科会のメンバー有志は、それぞれの企業や団体における立場を超えて、まずはこうした連携のフレームワークの先鞭をつけようとしています。Industrial Value Chain Initiative(IVI)は、特に日本のものづくりを知り尽くしている精鋭たちが、これからの新たな時代に向けて、フォロワーではなく、リーダーとしてイニシアチブをとるという宣言です。

具体的にどのような課題に対して何から手をつけるべきか、また、どのような相手とアライアンスを組むかなどについて、賛同するそれぞれの企業の第一歩は、さまざまです。ただし、それぞれの企業は、これまでのように単独で課題に取り組むのではなく、複数のクラスタを形成しながら方向性を定め、同時にそれぞれのクラスタで共通となる要素技術、標準化技術を横串としてコンソーシアム全体で共有しながら進めていくことになります。そして、そうした活動を、外部に対して最大限オープンにし、海外に対しても情報を発信していくことで、逆に海外からの人材や知恵を積極的に取り込むという姿勢です。

国の政策に従ってトップダウン的に動くのではなく、かといって企業あるいは企業グループが独自に行動するのではなく、多くの日本の製造業が、和の精神でゆるやかに連携しながら、自発的に行動を起こし、同時に競争と協調の枠組みを内包しながら高め合っていくようなフレームワークがデザインできれば、それは今後、国際的にも大きな流れとなっていくでしょう。産学官がそれぞれの立場で協力し、当初から、国内と国外といった障壁をもうけず、グローバルとローカルの両にらみで進め、それぞれの活動をボーダレスに展開していくことで、日本のものづくりの国際的なプレゼンスも大いに上がると期待できます。

  • 8)   西岡靖之,ボーダレス時代における「つながる工場」のための自律分散プラットフォーム,システム制御情報学会論文誌,Vol.28, No.3,システム制御情報学会(2015)
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