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提言2 「イニシアチブ」の勧め

4. 日本的な工場のパラダイムシフト

加工組立型のものづくりにおいて、部品の共通化は、コスト削減と品質安定において非常に重要なポイントです。市場ニーズの多様化、個別化に対応しつつ、工場での安定的な操業を維持するためには、製品のバリエーションを、部品の組み合わせ、あるいは一部の部品の差し替えのみで対応するマスカスタマイゼーションを志向する必要があります。

また、個々の作業場(ワークセンタ)では、作業の標準化が求められます。作業を標準化することで、作業者による品質のばらつきをなくすと同時に、作業者それぞれの習熟のスピードを速め、多能工化を容易にします。個々の作業が標準化されれば、ライン全体の能力バランスや、最適な工程設計も可能となり、自動化ラインへの展開あるいは並立も可能となります。

このように、製造業の内部では、これまで、部品の共通化、作業の標準化の取り組みが、全社的な活動として積極的に行われてきました。日本の製造業の技術力と生産性の高さは、こうした取り組みの成果といってもよいでしょう。これらの活動は、設計、生産、販売などの異なる部門が連携しつつ、社内のカイゼン活動の一環としても進められてきました。

ところが、企業間では、こうした共通化、標準化といった取り組みが、まったくといっていいほど進みません。メーカー側が極めて強い影響力をもったいわゆるケイレツ企業内での連携の場合を除いて、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンにおける共通化、標準化の取り組みは、あまり聞かれません。これは、ある意味で当然のことです。つまり、2つの組織が、協調よりは競合の関係にある場合には、お互いの利益の合計を増やそうとするWin-Winの関係は成り立ちにくいのです。

ただし、競争環境が変わり、ゲームのルールが変わると、この状況が一変することになります。マーケットがグローバルに展開し、競争相手の多くが海外のグローバル企業を含むサプライチェーンとなったとき、これまで競合していた相手とも協調しながら、グローバルな土俵で戦っていかなければならなくなりました。1990年代後半くらいから、サプライチェーンマネジメントということばが注目されるようになったのもこうした理由からです。

しかし、だからといって、企業間で、共通化、標準化が進んだかといえば、そうではありません。理由はいくつも挙げられますが、その中で、最も大きな要因として、個々の企業や工場の行き過ぎたクローズ体質と、自前主義があげられます。

基本的に、工場の内部には、多くのノウハウが暗黙知として組み込まれています。したがって、企業競争上の観点から、そうした独自の技術を秘匿することは当然の行為といえます。しかし、多くの工場では、何が固有のノウハウで、何が一般的なのかの区別がつかず、結果としてすべてを隠します。人財の流動性が少ないことも相まって、結果的にミニガラパゴスがいたるところで生まれ、個別に進化してしまいました。

もうひとつが自前主義です。ものづくりへのこだわりや、ブラックボックスを作らないという視点からすれば価値がありますが、ダイナミックなサプライチェーンや部品の共通化、要素技術の標準化といった観点からはデメリットとなります。あえて社外の標準に従わず、独自の社内標準で作ることを差別化だと言う人はさすがにいないとしても、多くの場所で、機能的に大差がないにもかかわらず、自社流に作り直すという“付加価値のないすり合わせ”が横行しているのではないでしょうか。

このように、企業内では共通化、標準化について非常に高いマインドをもった日本企業が、企業間での標準化を核とした連携強化やプラットフォーム化がきわめて不得手であるという実態が現状といえます。そして、この現状を克服し、そこでの原因となる問題を解決していくことなしには、個々の製造業が今後グローバルな競争の中で勝ち残っていくことができないのも事実なのです。

ここで解決のための糸口となるのが、厳格な標準と“ゆるやかな標準”の使い分けです。厳格な標準とは、法律で定められた安全基準や規格をはじめ、製品の機能および品質上、あるいは商品のマーケティング戦略上、必要不可欠となる標準です。一方、ゆるやかな標準は、守ってもよいが、守らなくてもよい標準です。あるいは、ある範囲の中で、それぞれの事情にあわせて独自に変更することが許される標準ということもできます。

提言2 「イニシアチブ」の勧め

3. 人、道具、機械、ロボット、そしてシステム

とはいえ、そうしたシナリオが単なる思い過ごしである可能性も高く、実際に、日本のものづくりは、まだ当分の間は世界でトップクラスを維持するでしょう。今日明日に、即刻手を打たなければならない状況でないかも知れません。まずは、ものづくりの本質にいまいちど立ち返り、日本のものづくりの良さを再発見したうえで、大きな目標をさだめ、それに向けてブレず着実に成果を積み上げるというスタンスで行く必要があるでしょう。

ものづくりの現状認識として、ここ数年、世界を凌駕するような魅力的な商品が日本から生まれていないのが事実だとすれば、それは商品のアイデアや発想力の問題だけではなく、“モノ”と“つくり”の距離が離れてしまったからなのではないかと思います。つまり、生産現場であれやこれやと試行錯誤する過程の中で、新しいひらめきやつながりが生まれ、それが最終的な商品のコアとなるコンセプトあるいはモチーフに成長していく場合があります。

もしそうだとしたら、製品の設計フェーズと、製品の生産フェーズは、表裏一体でなければなりません。事実、高度な加工技術をもつ町工場の生産現場は、オーダに対応した加工も、新たな図面に対する試作も、独自のアイデアや仮説にもとづく研究も、まわりから見れば何ら境界がありません。加工しながら考え、その新たな考えをもとに加工するといったスパイラル的PDCAにより、技術が磨かれていきます。生産現場は、知識創造の源なのです。

では、自動化、無人化といった取り組みは、こうした人間中心的なアプローチと相いれないものなのでしょうか? そうではありません。非常に逆説的ですが、工場を自動化、無人化するためには、それを実現する人たちが必要なのです。無人化工場は、それを作る人たちにとって、作る対象そのものであり、無人化工場を作り動かす場所が、彼ら、彼女らの生産現場なのです。無人化工場は、それを設計し、構築し、運用し、保守する非常に多くの人たちがいてはじめて成り立っているのです。

このように、ある種、メビウスの輪的なレトリックに惑わされないようになるには、システムという概念を、ここであらためて再確認しておくとよいでしょう。一般に、システムとは、“複数の要素で構成されており、お互いに複雑に関係しあうことで、全体としてひとつのまとまった振る舞いをするしくみ”をいいます。自動車も、携帯電話も、ロボットもみなシステムです。

ここで注意して欲しいのは、システムと“私”との関係です。あるいは、システムの内側と外側の境界についてです。自動車を運転するとき、あるいは携帯電話で通話するとき、私はシステムを利用するユーザであり、システムの外側にいます。一方、生産システムではたらく作業者である“私”にとって、私は生産システムの一部であり、システムの内側にいます。後者のように、人がシステムの内部にいて、その構成要素となっているものを第二種のシステムと呼ぶことにしましょう。

これまで、工学の世界では、自動車や携帯電話など、複雑なシステムですが、人がその外側にいるシステム(これを第一種のシステムと呼びましょう)を多く手掛けてきました。その反面、第二種のシステムは、その挙動が自然法則のみに依存せず、なかなか理論化できません。人は設計者が思った通りに動かないからです。まして、カイゼンすることで、生産システムそのものを作り替えてしまうような場合、それを理論的なモデルの中に押し込むことは、もはや不可能です。

ロボットがいくら人工知能によって賢くなったとしても、あくまでそれは人が作った自律的な機械でしかありません。一方、人を含む生産システムは、場合によって、どのような生産システムにでも自在に変容することが可能といえます。人とロボットの協調、あるいは人を中心とした生産システムが重要視されるのは、このような未知の状況への対応力が求められているからなのです。

日本的なものづくり、あるいはものづくりにおける日本人のアイデンティティを論じるときに、こうしたシステム論的な視点、あるいは人とシステムとの位置関係を基準とすると、いろいろと見えなかったものが見えるようになるでしょう。以下では、こうしたメガネを通して見えてくる日本のものづくりの新しい姿を議論していきたいと思います。

提言2 「イニシアチブ」の勧め

2. 現状認識とものづくりの課題

日本の製造業が置かれた状況は、ここ1、2年の景気動向や為替レートによって、いったんは持ち直しているようにも見えます。しかしながら、貿易収支を見れば歴然とわかるとおり、モノを作って輸出する力はかつての1970年代、80年代からは比較にならないほど落ちています。また、雇用の受け皿としての期待も、失われた20年を経て、今では完全にサービス業にとって代わられています。

加えて、産業のコメと言われてきた半導体産業の失墜と、それに拍車をかけたコンシューマ向けエレクトロニクス産業の低迷により、日本のものづくりへの自信とプライドが大きく揺らぎました。アップルコンピュータに代表されるイノベーティブな商品の企画力の欠如が、そのまま企業の収益力に影響し、技術は高いが売れる商品が作れないという傾向が今も続いています。

一方、海外のメガヒット商品を支えているのは、日本企業が作った高性能な部品であり、そうした外には見えない部分でのものづくりは大きな収益を上げているということもできます。また、そうした工場を高度に自動化し、高品質な製品を製造するためのFA機器や工作機械は日本製である場合が多いのです。さらに、炭素繊維など、原材料や素材の世界でも日本企業の躍進は目立ちます。

ものづくりにはこのようにいろいろなステージがあり、こうして考えると、日本のものづくりもまだまだ大丈夫、と安心していてもよいのかもしれません。しかし、やはり、コンシューマ向け製品は、付加価値が最も高く、派生するサービスなどの需要をも含めると、その経済的効果は莫大です。ソニーのウォークマンや任天堂のファミコンのように、新たなカテゴリを産み出すようなイノベーティブな商品はもう生まれないと諦めてよいという理由は、どこにもありません。

ドイツ政府がインダストリー4.0を政策の一部として掲げた理由は、国をあげての製造業の競争力強化です。製造業の競争力が相対的に落ちているのは日本もドイツも同じなのです。さらに中小企業の多い産業構造も、日本とよく似ているともいえます。勤勉な国民性からしても共通するところが多そうです。だからといって、インダストリー4.0の政策がそのまま日本にあてはまるわけではありません。「自動化という視点でいえば、日本ですでにできていることばかり」とか「目指しているところは崇高だが、どうせできるはずのない内容で話題先行」など、批判的な意見も聞こえてきます。

ただ、ここで指摘しておきたいのは、こうした楽観的、あるいは自己肯定的な方向に流れがちな日独の比較分析ではなく、あえて悲観的な視点、つまりすでに大きく引き離されており、追いつけるかどうかわからない部分があるのではないかという立場から見えてくる違いです。それは、まさにICTに対する姿勢と、標準化やフレームワークによって大連携する巧みさにおける違いなのです。

一般の日本企業では、社員の流動性が低い上に、生産現場で一人前になるには10年から15年かかるともいわれます。したがって、ものづくりの方法について、社外と比較する機会はめったになく、その必要もありませんでした。したがって、いざシステムをつなげよう、などと言った途端に、ああでもない、こうでもないと延々と議論が続きます。つまり、モノゴトを抽象的にとらえ、言語化し、形式知としていく能力において、日本人は欧米諸国から大きく後れをとっているといえます。

また、連携という観点からいえば、日本国内の場合、基本的に性善説に基づいた管理方法となっています。一方、欧米は基本的に性悪説であり、みずからすすんでカイゼンするというマインドはあまりありません。ましてや、守るべきところを守らないとすべて盗まれてしまいます。セキュリティの問題など、これまでは国内だけで閉じていた場合には問題が顕在化されなかった部分が、ICTを利活用してグローバル展開する段階になると、こうした基本的なスタンスが大きな弊害となる可能性があります。

日本の製造業が海外展開する際に、常に技術流出のリスクと向き合ってきました。デジタル化が進めば進むほど、この問題は深刻であり、結果として後発企業による技術のただ乗りを許してしまうことになるかもしれません。オープン&クローズ戦略3)によって、競争力の源泉となるコアの部分をクローズにするという理屈がわかっていても、前述の理由から、実際にその切り分けをすることができません。

ならばいっそのこと、すべてをオープンにして、競合相手をこちら側のプラットフォームに呼び込み、マーケットそのものを拡大するというプラットフォーム戦略もありでしょう。しかし、こうした戦略は、さらに高度なかけひきと、知財戦略およびマーケティング戦略を組み合わせ、国際標準化などの手法を適宜組み合わせながら進める必要があります。こうしたグローバルな規模のエコシステムを形成する能力については、日本はもっとも苦手とするところであると言わざるをえません。

インダストリー4.0の狙いや取り組みは、現在の日本の技術力からすれば、そう大きな脅威ではないと見て取った人も、もし、インダストリー4.0や、インダストリアル・インターネットコンソーシアム4)の裏側に、こうしたグローバルなエコシステムをしかけ、自社あるいは自国に有利なしくみを作り上げようとする思惑があったとすれば、いま、なにもせずに傍観しているのは、危険極まりないことであると気づくはずです。

提言2 「イニシアチブ」の勧め

提言2 「イニシアチブ」の勧め

この提言は、日本機械学会生産システム部門「つながる工場」研究分科会が、2015年3月にまとめた中間報告”Industrial Value Chain Initiative 「つながる工場」によるつながるものづくり”を再掲載したものです。

1. はじめに

ものづくりをとりまく環境が、めまぐるしく変わろうとしています。ドイツ政府が主導するインダストリー4.0 1)がひとつのきっかけともなり、全世界的な規模で、ものづくりとICTの融合による新しい時代を目指して、企業の垣根を超えたさまざまな活動がはじまりました。日本国内でも、日本機械学会生産システム部門の呼びかけにより、平成26年6月に、産学官の有志による提言が公開され2)、ものづくり大国である日本の製造業も、徐々にその進むべき方向性を、いったんものづくりの原点にまで立ち返って、根本から見直そうという機運がたかまっています。

この小論は、前述の提言を受けて日本機械学会内で設置された“インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会(P-SCD386)”(略称「つながる工場」研究分科会)の活動の中間とりまとめとして、これまでの議論の成果を、できるだけ多くの関係者にご理解いただけるような解説書としてまとめたものです。研究分科会は、平成28年2月の終了までまだしばらく期間を残していますが、世の中の流れがはるかに早いため、予定を大幅に早めて、具体的なアクションの提案をしていくことになりました。

「つながる工場」研究分科会は、日本を代表する製造業において、その中長期ビジョンを策定する責任者や実務家、情報サービス産業やICTの新しい展開を模索する企業の戦略スタッフ、生産工学、情報工学、経営学など、各分野で活躍するアカデミア、そして各省庁にて政策立案に携わる担当官などをメンバーとして、まさに産学官の垣根をこえた活動をしています。この貴重な場を、単なる意見交換、あるいは現状調査で終わらせるのではなく、未来へ向けたアクションに関するベクトルを合わせるための場としていければと考えています。

日本人は、大きなコンセプトを他に先駆けて提案することが苦手であるとよく言われます。前例がないと、なかなか前に進めないという傾向や、出る杭は打たれる的な文化が未だに根強いのは事実です。しかし、そうだとしても、ごく一部の有志グループに限定されてでもよいので、そろそろ、他にさきがけてリーダーシップを発揮し、あたらしいものづくりの世界でイニシアチブをとってもいいのではないかと思います。

だとしたら、何をどうすればよいのか? 日本の製造業はどう変わればよいのか? 小論はこの問いに対して、「つながる工場」というキーワードを手掛かりに、研究分科会での活動を踏まえ探しあてた1つの方向性をまとめたものです。研究分科会の後半は、おそらくここで述べられている内容を具体化し、現実のプロジェクトとして社会に実装していくことに重きが置かれることになるでしょう。そしてその流れは、最終的には、研究分科会から生まれた新しい組織に引き継がれることが理想です。

この小論が対象とする読者は、生産システムに関する専門家だけではなく、工場のマネージャ、関連業務のマネージャ、中小企業経営者、および製造業以外の業種(たとえばICT企業)の管理者、技術者、製造業支援コンサルタント、大学等の研究者、政策立案者、などです。できれば、これまでものづくりにはあまり関心がなかった人に読んでいただき、ものづくりの世界をより身近なものと感じてもらいたいと思います。ものづくりとICTが融合することで、ものづくりから派生した、さまざまな“かっこいい(クールな)”世界が広がることを、そしてそうした人々がイメージできたとしたら、この小論は、十分な価値があるといってよいかもしれません。

提言1「つながる工場」

6. ゲームのルールを変える

新しい時代の「つながる工場」のための連携プラットフォームは、まずはニッチトップ製造業、サポイン製造業など、中堅、中小製造業の新たな活躍の場を提供するだろう。しかし、同時に、大手の製造サービス企業や、デバイス系部品企業などにとって、新たなニーズと市場が生れることにもなる。さらに、製造プロセスを実行する現場が、国や地域を超えて、さまざまな立地環境で自律分散的に拡大していくことで、設備機器メーカー、工作機械メーカー、FAインテグレータといった業界にも、その経済的な波及効果が期待できる。

欧米と比較して、我が国では、生産システムを構築するFAインテグレータの需要が低く、工場をつなげるスペシャリストが育つ土壌が少ないとも言われている。大手製造業は、自社内に生産技術や設備の専門部隊がいて、生産ラインの大半は社内構築する力をもっている。これは、ある意味で、我が国の製造業の強みでもあり、一方で、「つながる工場」を実現する上での障害にもなり得る。これを機に、FAインテグレータ業界が、工場管理関連のソフトウェアなどのシステムインテグレータ、そしてコンサルタント業界などと一体となり、これまでなかった種類の連携のニーズと、海外展開などを視野に入れ、新たなグローバルビジネスを担う産業として発展する必要がある。

これからのICTのさらなる進展により、製造業の実体がますますデジタル化され、バーチャルな世界に急速に移行するとするならば、製造技術やノウハウがますます流動化し、コモディティ化し、このままでは、我が国の製造業の弱体化はさらに進むようにも思われる。しかし一方で、モノづくりは結局のところ、現地・現物・現実とのインタラクションと、人が主体的に行なうカイゼン思考の存在が不可欠であるということを我々は知っている。言い換えれば、否定的な意味ではなく、ICTの限界を理解しており、それと同時に、人間力、チーム力の重要性とその活用方法を知っているのである。

したがって、ICTへの過度な依存に走る欧米のモノづくりからは、注意深く一線を画し、あえて難しいといわれているモノづくりの実体、あるいは進化し続ける現場とICTとの融合を進めてはどうか。そしてその上で、そうしたバーチャルとリアルが一体となった日本的ものづくりの基本構成を、グローバルでオープンなモノづくりネットワークの構成要素として展開する。こうしたモノづくりの本道が、長い目でみた場合の製品の付加価値向上に寄与するということが広く社会に認知されたとき、我が国のものづくりは、新たなブローバル化、ボーダレス化の流れとともに、急速なスピードで飛躍し発展することになるだろう。

未来の工場が、地域的ハンデを超えて、その都度最適なパートナーである工場とインターネットを介してダイレクトにつながる。我が国のモノづくりの現場が、国内あるいは海外のモノづくりの現場と直接つながり、現場の技術者、技能者が、国内にいながらさまざまな地域の技術者と渡り合う。そして、そうしたコミュニティの中で、形式知だけでなく暗黙知の領域も含めて、常にイニシアチブをとり、我が国のモノづくりの優位性を発信し続けるのだ。ICTを道具として使い、エンジニア、マイスター、クリエーター、プロデューサーなどが、主体的に関わる新しいモノづくり文化を、日本から発信できれば素晴らしい。

そして、我が国の未来を考えれば、こうした活動を、連携プラットフォームとして具体化し、マーケティング戦略、知財戦略などをその内部に組込む必要がある。これにより、特に海外での活動に対応する経済的価値の還流を確実に行なう体制を整え、これからますます激しさを増す国際競争の中でのゲームのルールを、我が国に有利な形に作り変えるのである。結果として、モノづくり大国である我が国の遺伝子は、さまざまな実体社会の取り組みの中で、その形を変えながら、さらに強化され、次世代へ受け継がれていくはずである。我が国の産業競争力強化の観点からも、産学官が一体となった取り組みに期待したい。

出典:日本機械学会生産システム部門 日本的な「つながる工場」実現へ向けた製造プロセスイノベーションの提言(2014年6月)より

提言1「つながる工場」

5. 技術イネ―ブラ―と学会の役割

「つながる工場」は、現在の工場が単独で業務改革、あるいは技術革新をすることで実現するものではない。これは工場内の問題であると同時に、工場間の問題であり、さらにいえば、それらの業種、業態のことなる工場をふくめた広い意味での“生産システム”の変革が必要となる。したがって、個々の要素技術もさることながら、統合化技術、システム化技術の新たな進展が求められる。

すでにICTがモノとモノをつなぎ、その気にさえなれば、膨大な数のモノの状態や動きを、インターネットを介してデータとして入手可能となった。一方で、そうしたビックデーターを、情報として意思決定に利用するには、多くの技術的課題が残されている。特に、モノづくりの場合、加工や組み立てなどのプロセスによって、モノの形態が変化しつつ広域で移動する。したがって、装置や機械など生産ラインの構成要素の統合的モデリング技術や、生産対象のサイバー&フィジカルなトレース技術、あるいはバーチャルとリアルを統合したシミュレーション技術、個別設計生産における企業をまたぐ型統合CAD/CAM/CAEなど、多くの技術的なチャレンジが必要となる。

また、これまでは企業内部で完結していたエンジニアリングチェーンに関する製造プロセス連携を、工場および企業を超えて可能とするために、生産システムを技術的、工学的な視点のみからモデル化するだけでなく、1つの経営システムとして、技術情報と顧客価値の両方の観点から、品質、コスト、納期といった管理技術の視点を含めてモデル化する技術も要求される。「つながる工場」を可能とする製造業のリファレンスモデルの開発、企業間での生産システム相互連携のための技術情報の交換方式、物流、商流、および情報ネットワークインフラの設計、エネルギーや環境負荷に関する可視化技術、製造情報とフィールドサービス情報との高次元での連携技術、そして、自律型企業グループによるエンジニアリングチェーン、デマンド・サプライチェーンの最適化技術なども新たな研究課題となる。

特に、日本機械学会生産システム部門の中で取り組むべき課題として、図2に示すように、生産設備や生産ラインを効率よくフレキシブルに活用し製造を実行するMES(Manufacturing Execution System)と、製造現場の生産技術および管理技術として、実際の製造と、それを支える設備や作業者やさまざまな規約、標準ルールなどを含め、最終的な品質、コスト、納入を保証するMOM(Manufacturing Operations Management)の統合モデルがある。

ここで、MESを構成する技術情報は、工程設計、生産技術、そして生産準備といったエンジニアリングチェーンを介して、製造現場と一体となって生成され管理される。技術者、技能者による形式知と暗黙知が混然一体となった製造現場をまず受け入れた上で、それを起点とした新しい概念に基づいたモデリングを行なう必要がある。日本的な「つながる工場」を実現する上で、こうしたモデルが、新しい製造業を議論する上での中核となり、連携のための共通言語として大いに機能すると予想される。

生産システム部門では、生産システムの新しい学問領域として、こうした統合モデルを対象として2014年度に研究分科会を立ち上げ、海外の動向も含めて課題の整理と、技術開発のためのロードマップを明らかにしていく予定である。


製造オペレーション管理のフレームワーク

図 製造オペレーション管理のフレームワーク

提言1「つながる工場」

4. 連携プラットフォームとICT利活用

サイバーフィジカル・システム(CPS)、あるいはモノのインターネット(IoT)といった用語とともに、設備や機器がそれ単体でデータを発信し、人、モノ、お金、そして情報の流れが、データとしてネットワーク上で把握できるようになりつつある。ただし、ここで決して間違えてはならないのは、こうしてデータとしてインターネットを経由して把握することができる現実は、本来知りたい現実のほんの一部であるということである。

つまり、ICT上で実現可能なバーチャルな世界と、実際のモノづくりの現場および企業活動そのものに対応するリアルな世界との関係を、常に対応づける努力をするとともに、最終的には、リアルな世界で得られた情報を加味してリアルな世界で意思決定していく必要がある。ICTは、あくまでもリアルな意思決定を補完する道具である。こうした点を考慮し、以下に「つながる工場」を実現するための連携プラットフォームの要件をまとめる。

(1)現場・現物・現実ベースのICT

すでに言及したとおり、連携プラットフォームでは、モノや人々のリアルな情報を、リアルなまま扱うことを可能とし、過度なデジタル化、ICT化を避ける。これにより、技術流出防止、人やモノの移動による経済効果、職人技能や暗黙知の醸成を図る。

(2)オープン&クローズ戦略の具現化

現在の工場の内部のしくみについて、徹底したオープン化、標準化を推進し、エコシステムを展開する。一方で、オープン&クローズ戦略により、競争領域である生産ライン内部の製造ノウハウは隠ぺいし、製造プロセスのブラックボックス化を可能とする。

(3)フェアでセキュアな連携の外部保証

試作図面や量産図面の改変、製造方法や加工条件の決定など、製造プロセス上の知的財産の部分について、その権利と責任の部分を明確にする。そして、第三者による追跡を可能にすることで、技術開発の公正な競争を促すと同時に、製造物責任も明確にする。

(4)グローバル対応と国際取引に対する支援

グローバル化、ボーダレスな取引環境に対応し、連携プラットフォームの参加企業の国や地域は問わない。製造プロセス連携が国境を越えて実現した場合に発生する為替の問題、通関の問題、知財や法務の問題などに対する取引企業の事務負担を軽減し支援する。

提言1「つながる工場」

3. 製造業の連携モデルと標準化の課題

「つながる工場」を実現するためには、企業を超えたモノづくりの標準化が欠かせない。特に、インターネットを利活用したビジネス連携、あるいは製造プロセス連携を行なう場合、ICTとしてどのレベルのどういったデータを対象とし、何と何をつなげるべきか、といった議論を、標準的なモデルの上で、あらかじめ十分に行っておく必要がある。

この分野では、製造業のFA(ファクトリーオートメーション)と管理システム、経営システムを統合したモデルの国際標準としてIEC62264がある。そこでは、図1に示すとおり、製造業の全体をレベル1からレベル4までに分けて定義している。「つながる工場」は、他の工場あるいは外部と、どのレベルでつながるのか。


企業内、企業間の連携モデル

図 企業内、企業間の連携モデル


まず、連携を、企業内垂直連携、企業内水平連携、そして企業間連携の3種類に分けよう。現状では、レベル1、レベル2における企業内水平連携は、ICTによるところが大きく、この領域においては、国際標準を含め多くの標準化が行われている。また、レベル4の経営管理では、ERP等の情報システムによって業務連携が行われ、企業間ではEDI等のデータ連携も実現している。

こうして考えると、「つながる工場」による新たなチャレンジは、レベル3の現場管理の上下をつなぐ企業内垂直連携、企業内水平連携、そして現場管理レベルでの企業間連携となるだろう。製造業にとって、工場における製造の現場は、5Sの徹底と、カイゼン活動によるムダの徹底した排除によって、ひとつのショーケース的な位置付けともなりうる。しかし、実際には、ものづくりの現場は、多種多様な情報が行き交い、もっとも標準化しにくい対象であるともいえる。

我が国の製造現場の強みとしては、生産技術、生産準備といったエンジニアリング力があげられる。欧米では、こうしたエンジニアリングと製造オペレーションは、完全に分業化されており、製造現場におけるいわゆるすりあわせ技術が成立しない。これに対して、我が国の場合、それぞれの現場の特性、設備の特性にあわせた工程設計、生産技術を現場と一体となって作り上げる文化がある。したがって、製造現場を核とした設計、製造、保全といったエンジニアリングチェーン上のプロセス連携を、ICTを用いて効果的に行うことで、新たな飛躍のきっかけとなる可能性が高い。

提言1「つながる工場」

2. 「つながる工場」とは

新しいコンセプトとしての日本的な「つながる工場」について説明するために、3つの仮想シナリオを紹介する。まず、シナリオ1は、最終製品を製造するニッチトップ企業のモデルである。

シナリオ1

2018年、法政工業(仮称)は、東京オリンピック&パラレンピック開催に向けて開発した障がい者用補助具を発表。3Dプリンタと一部金属部品を組み込んだ製造工程は非常に複雑で月産10台程度を予定したものであった。これが北欧のメディアで紹介され、2022年の時点で月産2000台の生産体制に段階的に事業を拡大。製造コミュニティプラットフォームを活用し、自社工場を福島県に建設するまでの間をネットワーク型ファブ方式で投資コストとリスクを押さえつつ対応した。

いわゆる3Dプリンタは、小ロットで繰り返しのない注文に向いており、量産の場合はそれに対応した工場の設備投資を行ったほうが1個あたりのコストが安くなる。問題はその中間の状態であり、ニッチトップ企業が必ず通過するプロセスともいえる。こうした中間的な生産ロットの場合の製造委託のしくみとして「つながる工場」が利用できる。

一方、以下のシナリオ2は、サポートインダストリー(サポイン)企業の例である。

シナリオ2

法政精密(仮称)は、大手素材メーカーとの共同開発プログラムに応募し新複合素材の難加工技術を確立した。第三者による技術評価指標と知財管理により、その後は安定的に加工注文が得られるとともに、製造コミュニティプラットフォームを介した新規引き合いが増え、海外からの注文も飛躍的に伸びていった。量産または繰り返し型の注文もあったが、同社は規模拡大をせず、それらをライセンス供与する一方で、新たな加工技術の開発に常に経営資源を集中させている。

中小企業の高い加工技術が、大手製造業の製造プロセスの一部を支えていることは周知のとおりであるが、こうしたマッチングを図るのみではなく、そこでの健全は取引と技術評価と知財管理をしくみとして保証することで、さらなる飛躍が見込まれる。また、物流や通関等の機能とも連携することで、海外からの受注増加も期待できる。

そして、最後の例は、まったく新しいタイプの製造サービス企業のイメージである。

シナリオ3

機械加工を得意とする受託製造サービス大手のホーセイ(仮称)は、2025年の現在で国内3位となる。2014年当時にEMS(電子機器受託製造サービス)事業を大幅に縮小し、機械加工および樹脂製品にシフトした。工程管理を徹底的に標準化するとともに、比較的コストの安いプレス+板金加工と溶接ロボットの組合せで合理化、1個作りから月産5,000個までをこなす。主力は電気自動車の内装部品で、顧客の生産管理システムとクラウド上で連動し1日2便電子かんばんで納入している。

エレクトロニクスの進歩により、メカ要素がどんどんエレキやソフトに置き換えられ、それらがICチップ化、プリント基板化され、EMS企業に外部委託できるようになった。しかし一方で、すりあわせ型のモノづくりが必要なメカ要素は依然として存在し、こうした欧米的発想の製造サービスとはなり得ていない。そうした部分を効率よく高品質に行なうのは、我が国の製造業の得意とするところであり、これが明日の製造ビジネスのキラーコンテンツとなる可能性は大いにある。

「つながる工場」の特徴は、モノをつくるプロセスが企業を超えて相互に連携することである。これまでのサプライチェーンでは、多くの場合、異なる企業間での取引として、モノを介した売り買いの関係でつながっていた。これに対して、製造プロセスがダイレクトに連携するようになると、素材、部品、モジュール品、そして製品といった定型的な単位での取引のみではなく、中間品や仕掛品といった単位でのやりとりや、製造プロセスを部分的に委託する形態がこれまで以上に柔軟に実現する。

こうした製造プロセスの外部委託は、いわゆる製造業の下請けとして、中小企業、小規模企業が担ってきたという歴史がある。そこでは、価格決定権は委託側にあり、製造プロセスを決定し、評価するのも委託側であった。これに対して、「つながる工場」では、対等な立場で、あるいは場合によって受託側が優位な立場でサプライチェーンを構成する。これにより、高度な加工技術、きめ細かな生産準備、素材技術や要素技術をもった企業が、よりその技術を磨くことに専念できる。また、今後ますます増える多種多様な製品化ニーズ、個別の顧客要求に対応して、設計と製造が企業の壁をこえて一体となったモノづくりが実現する。

提言1「つながる工場」

1. はじめに

この提言は、日本機械学会生産システム部門の有志により、2014年6月に発表された”日本的な「つながる工場」実現へ向けて製造プロセスイノベーションの提言”を再掲載したものです。   

1. はじめに

ドイツ政府が国策として産学官で現在取り組んでいる「第4次生産革命、インダストリー4.0」のキーコンセプトは、「つながる工場」である。モノのインターネット(IoT)の今後の急速な普及にともない、工場の設備や機器が工場の垣根を越えてつながり、製造の現場と消費者とがダイレクトにつながる。そして、そうした設備や機器の調達先や、それらを操作する作業者、設置または修理するエンジニアもがネットワークでつながり、製造業のビジネス形態、働く人々のライススタイルまでもが大きく変わることを予見している。

一方で、我が国では、多くの製造業がよりコストの安い労働力を求めて製造拠点を海外へ移し、多くの雇用が失われると同時に、世界に冠たる製造立国として、その基盤そのものが大きく揺らいでいる。グローバル化の流れとともに、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン上での競争ルールが劇的に変わり、部品メーカー、製造機器メーカーといった、最終製品メーカーにモノを供給する企業も、勝ち残りのための戦略転換を余儀なくされている。10年後、20年後を見据えた変革はどうあるべきか。キーワードは、オープン&クローズ化、製造のサービス化、そしてICTによる“日本的な”「つながる工場」だ。

現在、モノづくりのイノベーション政策として、3Dプリンタの技術開発とその普及が注目されている。あるいは産業用ロボット技術の用途拡大などに期待が集まっている。戦後の高度成長期を支えた町工場が生活空間のすぐそばにあったように、これらの新たなイノベーションは、ものづくりの現場をより身近な場所に引き戻す大きな流れとなるだろう。ただし、その一方で、変革を迫られた従来の工場では、大規模な投資もままならない情勢の中で、あい変わらず、戦略的手詰まり感が蔓延している。

本稿では、中堅、中小製造業も含めた次世代工場のためのキーコンセプトを明らかにし、我が国のモノづくりの基本政策として取り組むべき課題と、その解決へむけた方策について提言する。ドイツの例を見るまでもなく、もはや製造業の世界においてもICT化、オープン化、ネットワーク化は避けてとおることができない。ただし、我が国は、我が国がもつ技術力、開発力、現場力、そして過去から培ってきた日本的なモノづくり文化を踏まえ、我が国なりのやり方で「つながる工場」を定義し、それを実現すべきである。

そして、提言とともに、日本機械学会生産システム部門としての立ち位置、イノベーションの実現へ向けて貢献できる技術的、学問的なテーマと課題、そしてこれからの具体的なアクションプランについても併せて付記したい。

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