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  • 提言1「つながる工場」

    5. 技術イネ―ブラ―と学会の役割

    「つながる工場」は、現在の工場が単独で業務改革、あるいは技術革新をすることで実現するものではない。これは工場内の問題であると同時に、工場間の問題であり、さらにいえば、それらの業種、業態のことなる工場をふくめた広い意味での“生産システム”の変革が必要となる。したがって、個々の要素技術もさることながら、統合化技術、システム化技術の新たな進展が求められる。

    すでにICTがモノとモノをつなぎ、その気にさえなれば、膨大な数のモノの状態や動きを、インターネットを介してデータとして入手可能となった。一方で、そうしたビックデーターを、情報として意思決定に利用するには、多くの技術的課題が残されている。特に、モノづくりの場合、加工や組み立てなどのプロセスによって、モノの形態が変化しつつ広域で移動する。したがって、装置や機械など生産ラインの構成要素の統合的モデリング技術や、生産対象のサイバー&フィジカルなトレース技術、あるいはバーチャルとリアルを統合したシミュレーション技術、個別設計生産における企業をまたぐ型統合CAD/CAM/CAEなど、多くの技術的なチャレンジが必要となる。

    また、これまでは企業内部で完結していたエンジニアリングチェーンに関する製造プロセス連携を、工場および企業を超えて可能とするために、生産システムを技術的、工学的な視点のみからモデル化するだけでなく、1つの経営システムとして、技術情報と顧客価値の両方の観点から、品質、コスト、納期といった管理技術の視点を含めてモデル化する技術も要求される。「つながる工場」を可能とする製造業のリファレンスモデルの開発、企業間での生産システム相互連携のための技術情報の交換方式、物流、商流、および情報ネットワークインフラの設計、エネルギーや環境負荷に関する可視化技術、製造情報とフィールドサービス情報との高次元での連携技術、そして、自律型企業グループによるエンジニアリングチェーン、デマンド・サプライチェーンの最適化技術なども新たな研究課題となる。

    特に、日本機械学会生産システム部門の中で取り組むべき課題として、図2に示すように、生産設備や生産ラインを効率よくフレキシブルに活用し製造を実行するMES(Manufacturing Execution System)と、製造現場の生産技術および管理技術として、実際の製造と、それを支える設備や作業者やさまざまな規約、標準ルールなどを含め、最終的な品質、コスト、納入を保証するMOM(Manufacturing Operations Management)の統合モデルがある。

    ここで、MESを構成する技術情報は、工程設計、生産技術、そして生産準備といったエンジニアリングチェーンを介して、製造現場と一体となって生成され管理される。技術者、技能者による形式知と暗黙知が混然一体となった製造現場をまず受け入れた上で、それを起点とした新しい概念に基づいたモデリングを行なう必要がある。日本的な「つながる工場」を実現する上で、こうしたモデルが、新しい製造業を議論する上での中核となり、連携のための共通言語として大いに機能すると予想される。

    生産システム部門では、生産システムの新しい学問領域として、こうした統合モデルを対象として2014年度に研究分科会を立ち上げ、海外の動向も含めて課題の整理と、技術開発のためのロードマップを明らかにしていく予定である。


    製造オペレーション管理のフレームワーク

    図 製造オペレーション管理のフレームワーク

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    4. 連携プラットフォームとICT利活用

    サイバーフィジカル・システム(CPS)、あるいはモノのインターネット(IoT)といった用語とともに、設備や機器がそれ単体でデータを発信し、人、モノ、お金、そして情報の流れが、データとしてネットワーク上で把握できるようになりつつある。ただし、ここで決して間違えてはならないのは、こうしてデータとしてインターネットを経由して把握することができる現実は、本来知りたい現実のほんの一部であるということである。

    つまり、ICT上で実現可能なバーチャルな世界と、実際のモノづくりの現場および企業活動そのものに対応するリアルな世界との関係を、常に対応づける努力をするとともに、最終的には、リアルな世界で得られた情報を加味してリアルな世界で意思決定していく必要がある。ICTは、あくまでもリアルな意思決定を補完する道具である。こうした点を考慮し、以下に「つながる工場」を実現するための連携プラットフォームの要件をまとめる。

    (1)現場・現物・現実ベースのICT

    すでに言及したとおり、連携プラットフォームでは、モノや人々のリアルな情報を、リアルなまま扱うことを可能とし、過度なデジタル化、ICT化を避ける。これにより、技術流出防止、人やモノの移動による経済効果、職人技能や暗黙知の醸成を図る。

    (2)オープン&クローズ戦略の具現化

    現在の工場の内部のしくみについて、徹底したオープン化、標準化を推進し、エコシステムを展開する。一方で、オープン&クローズ戦略により、競争領域である生産ライン内部の製造ノウハウは隠ぺいし、製造プロセスのブラックボックス化を可能とする。

    (3)フェアでセキュアな連携の外部保証

    試作図面や量産図面の改変、製造方法や加工条件の決定など、製造プロセス上の知的財産の部分について、その権利と責任の部分を明確にする。そして、第三者による追跡を可能にすることで、技術開発の公正な競争を促すと同時に、製造物責任も明確にする。

    (4)グローバル対応と国際取引に対する支援

    グローバル化、ボーダレスな取引環境に対応し、連携プラットフォームの参加企業の国や地域は問わない。製造プロセス連携が国境を越えて実現した場合に発生する為替の問題、通関の問題、知財や法務の問題などに対する取引企業の事務負担を軽減し支援する。

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    3. 製造業の連携モデルと標準化の課題

    「つながる工場」を実現するためには、企業を超えたモノづくりの標準化が欠かせない。特に、インターネットを利活用したビジネス連携、あるいは製造プロセス連携を行なう場合、ICTとしてどのレベルのどういったデータを対象とし、何と何をつなげるべきか、といった議論を、標準的なモデルの上で、あらかじめ十分に行っておく必要がある。

    この分野では、製造業のFA(ファクトリーオートメーション)と管理システム、経営システムを統合したモデルの国際標準としてIEC62264がある。そこでは、図1に示すとおり、製造業の全体をレベル1からレベル4までに分けて定義している。「つながる工場」は、他の工場あるいは外部と、どのレベルでつながるのか。


    企業内、企業間の連携モデル

    図 企業内、企業間の連携モデル


    まず、連携を、企業内垂直連携、企業内水平連携、そして企業間連携の3種類に分けよう。現状では、レベル1、レベル2における企業内水平連携は、ICTによるところが大きく、この領域においては、国際標準を含め多くの標準化が行われている。また、レベル4の経営管理では、ERP等の情報システムによって業務連携が行われ、企業間ではEDI等のデータ連携も実現している。

    こうして考えると、「つながる工場」による新たなチャレンジは、レベル3の現場管理の上下をつなぐ企業内垂直連携、企業内水平連携、そして現場管理レベルでの企業間連携となるだろう。製造業にとって、工場における製造の現場は、5Sの徹底と、カイゼン活動によるムダの徹底した排除によって、ひとつのショーケース的な位置付けともなりうる。しかし、実際には、ものづくりの現場は、多種多様な情報が行き交い、もっとも標準化しにくい対象であるともいえる。

    我が国の製造現場の強みとしては、生産技術、生産準備といったエンジニアリング力があげられる。欧米では、こうしたエンジニアリングと製造オペレーションは、完全に分業化されており、製造現場におけるいわゆるすりあわせ技術が成立しない。これに対して、我が国の場合、それぞれの現場の特性、設備の特性にあわせた工程設計、生産技術を現場と一体となって作り上げる文化がある。したがって、製造現場を核とした設計、製造、保全といったエンジニアリングチェーン上のプロセス連携を、ICTを用いて効果的に行うことで、新たな飛躍のきっかけとなる可能性が高い。

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    2. 「つながる工場」とは

    新しいコンセプトとしての日本的な「つながる工場」について説明するために、3つの仮想シナリオを紹介する。まず、シナリオ1は、最終製品を製造するニッチトップ企業のモデルである。

    シナリオ1

    2018年、法政工業(仮称)は、東京オリンピック&パラレンピック開催に向けて開発した障がい者用補助具を発表。3Dプリンタと一部金属部品を組み込んだ製造工程は非常に複雑で月産10台程度を予定したものであった。これが北欧のメディアで紹介され、2022年の時点で月産2000台の生産体制に段階的に事業を拡大。製造コミュニティプラットフォームを活用し、自社工場を福島県に建設するまでの間をネットワーク型ファブ方式で投資コストとリスクを押さえつつ対応した。

    いわゆる3Dプリンタは、小ロットで繰り返しのない注文に向いており、量産の場合はそれに対応した工場の設備投資を行ったほうが1個あたりのコストが安くなる。問題はその中間の状態であり、ニッチトップ企業が必ず通過するプロセスともいえる。こうした中間的な生産ロットの場合の製造委託のしくみとして「つながる工場」が利用できる。

    一方、以下のシナリオ2は、サポートインダストリー(サポイン)企業の例である。

    シナリオ2

    法政精密(仮称)は、大手素材メーカーとの共同開発プログラムに応募し新複合素材の難加工技術を確立した。第三者による技術評価指標と知財管理により、その後は安定的に加工注文が得られるとともに、製造コミュニティプラットフォームを介した新規引き合いが増え、海外からの注文も飛躍的に伸びていった。量産または繰り返し型の注文もあったが、同社は規模拡大をせず、それらをライセンス供与する一方で、新たな加工技術の開発に常に経営資源を集中させている。

    中小企業の高い加工技術が、大手製造業の製造プロセスの一部を支えていることは周知のとおりであるが、こうしたマッチングを図るのみではなく、そこでの健全は取引と技術評価と知財管理をしくみとして保証することで、さらなる飛躍が見込まれる。また、物流や通関等の機能とも連携することで、海外からの受注増加も期待できる。

    そして、最後の例は、まったく新しいタイプの製造サービス企業のイメージである。

    シナリオ3

    機械加工を得意とする受託製造サービス大手のホーセイ(仮称)は、2025年の現在で国内3位となる。2014年当時にEMS(電子機器受託製造サービス)事業を大幅に縮小し、機械加工および樹脂製品にシフトした。工程管理を徹底的に標準化するとともに、比較的コストの安いプレス+板金加工と溶接ロボットの組合せで合理化、1個作りから月産5,000個までをこなす。主力は電気自動車の内装部品で、顧客の生産管理システムとクラウド上で連動し1日2便電子かんばんで納入している。

    エレクトロニクスの進歩により、メカ要素がどんどんエレキやソフトに置き換えられ、それらがICチップ化、プリント基板化され、EMS企業に外部委託できるようになった。しかし一方で、すりあわせ型のモノづくりが必要なメカ要素は依然として存在し、こうした欧米的発想の製造サービスとはなり得ていない。そうした部分を効率よく高品質に行なうのは、我が国の製造業の得意とするところであり、これが明日の製造ビジネスのキラーコンテンツとなる可能性は大いにある。

    「つながる工場」の特徴は、モノをつくるプロセスが企業を超えて相互に連携することである。これまでのサプライチェーンでは、多くの場合、異なる企業間での取引として、モノを介した売り買いの関係でつながっていた。これに対して、製造プロセスがダイレクトに連携するようになると、素材、部品、モジュール品、そして製品といった定型的な単位での取引のみではなく、中間品や仕掛品といった単位でのやりとりや、製造プロセスを部分的に委託する形態がこれまで以上に柔軟に実現する。

    こうした製造プロセスの外部委託は、いわゆる製造業の下請けとして、中小企業、小規模企業が担ってきたという歴史がある。そこでは、価格決定権は委託側にあり、製造プロセスを決定し、評価するのも委託側であった。これに対して、「つながる工場」では、対等な立場で、あるいは場合によって受託側が優位な立場でサプライチェーンを構成する。これにより、高度な加工技術、きめ細かな生産準備、素材技術や要素技術をもった企業が、よりその技術を磨くことに専念できる。また、今後ますます増える多種多様な製品化ニーズ、個別の顧客要求に対応して、設計と製造が企業の壁をこえて一体となったモノづくりが実現する。

  • 提言1「つながる工場」

    1. はじめに

    この提言は、日本機械学会生産システム部門の有志により、2014年6月に発表された”日本的な「つながる工場」実現へ向けて製造プロセスイノベーションの提言”を再掲載したものです。   

    1. はじめに

    ドイツ政府が国策として産学官で現在取り組んでいる「第4次生産革命、インダストリー4.0」のキーコンセプトは、「つながる工場」である。モノのインターネット(IoT)の今後の急速な普及にともない、工場の設備や機器が工場の垣根を越えてつながり、製造の現場と消費者とがダイレクトにつながる。そして、そうした設備や機器の調達先や、それらを操作する作業者、設置または修理するエンジニアもがネットワークでつながり、製造業のビジネス形態、働く人々のライススタイルまでもが大きく変わることを予見している。

    一方で、我が国では、多くの製造業がよりコストの安い労働力を求めて製造拠点を海外へ移し、多くの雇用が失われると同時に、世界に冠たる製造立国として、その基盤そのものが大きく揺らいでいる。グローバル化の流れとともに、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン上での競争ルールが劇的に変わり、部品メーカー、製造機器メーカーといった、最終製品メーカーにモノを供給する企業も、勝ち残りのための戦略転換を余儀なくされている。10年後、20年後を見据えた変革はどうあるべきか。キーワードは、オープン&クローズ化、製造のサービス化、そしてICTによる“日本的な”「つながる工場」だ。

    現在、モノづくりのイノベーション政策として、3Dプリンタの技術開発とその普及が注目されている。あるいは産業用ロボット技術の用途拡大などに期待が集まっている。戦後の高度成長期を支えた町工場が生活空間のすぐそばにあったように、これらの新たなイノベーションは、ものづくりの現場をより身近な場所に引き戻す大きな流れとなるだろう。ただし、その一方で、変革を迫られた従来の工場では、大規模な投資もままならない情勢の中で、あい変わらず、戦略的手詰まり感が蔓延している。

    本稿では、中堅、中小製造業も含めた次世代工場のためのキーコンセプトを明らかにし、我が国のモノづくりの基本政策として取り組むべき課題と、その解決へむけた方策について提言する。ドイツの例を見るまでもなく、もはや製造業の世界においてもICT化、オープン化、ネットワーク化は避けてとおることができない。ただし、我が国は、我が国がもつ技術力、開発力、現場力、そして過去から培ってきた日本的なモノづくり文化を踏まえ、我が国なりのやり方で「つながる工場」を定義し、それを実現すべきである。

    そして、提言とともに、日本機械学会生産システム部門としての立ち位置、イノベーションの実現へ向けて貢献できる技術的、学問的なテーマと課題、そしてこれからの具体的なアクションプランについても併せて付記したい。

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