2.業務シナリオ

想定される活動またはプロジェクト

1つの重要なテーマとして、まず企業内でのデジタル化、ICT化があります。「つながる工場」のつながる単位を、工場から生産工程のレベルに落とすためには、日本の現場にあったリファレンスモデルを大手製造業が共同で開発するとともに、それを活用した連携のひな形を確立する必要があります。

特に、これまで、比較的、サプライチェーンにおけるデータ連携に多くの企業が取り組んできましたが、これに加えて、エンジニアリングチェーンにもフォーカスし、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンが一体となったしくみを議論していく必要があります。なぜなら、日本企業は、これからさらに製品ライフサイクルの短期化と、個別受注生産、個別設計生産に対応するなかで、エンジニアリングのPDCAサイクルをより短くせざるを得なくなると予想されるからです。
たとえば、前述のデジタルファクトリーの枠組みにより、バリューチェーンを自律的で自己完結的な組織のダイナミックな組み合わせで構成することを可能とするプロジェクトなどが想定できそうです。そこで、工程設計のためのシミュレーション技術と、生産管理のためのスケジューリング技術、そして設備の予防保全、予知保全のための人工知能技術などが融合した新しいモデルとその実装が可能となるかもしれません。

また、自律的なものづくりの自己組織化という観点からすると、それぞれの組織が、技術的な側面とともに、原価あるいは付加価値という側面から、経済的、経営的な意味も含めて成り立っている必要があります。たとえば、中小製造業が、それぞれの強みを発揮しながら、大手製造業と連携してものづくりを進めていくためには、設計や見積りの段階から、モデル化、データ化を進め、それらを効率的に利活用していくしくみが欠かせません。

こうした話は、大手製造業の内部でも、それぞれをプロフィットセンター(収益管理主体)としてみなす動きに展開させることも可能です。単に、安く仕入れて高く売るのではなく、工程設計やカイゼンによって効率的な生産システムを構築し、それぞれの設備を効果的にメンテナンスすることで、トータルの利益向上に貢献するという立場は、現場力に定評のある日本のものづくりが目指すひとつのパターンではないでしょうか。

工場が中核となった企業内部のデジタル化、そして企業間でのデジタル化が、エンジニアリングチェーンを含むバリューチェーンとして機能しはじめると、工場内の設備やロボットを手掛けるメーカーやインテグレーターにとって、新しい商機が生まれます。工場内での設備の運転履歴や故障履歴など、さまざまなエンジニアリングデータは、それを提供する設備メーカーにとってはバリューそのものです。

つまり、モノそのものではなく、モノにまつわるデータがビジネスの対象として付加価値をもつしくみが、技術的にはすでに可能になっています。こうしたしくみを、ある程度、共通的な枠組みのなかで、プロジェクトをとおして実装していくことで、多くの知見が得られるはずです。また、工場の生産ラインを構築するサービス、実際の生産や保全に関するサービスなど、製造業から派生するサービスが、新しいサービス産業の担い手として自立していくための共通のプラットフォームの構築なども、新たなプロジェクトの候補のひとつとなるでしょう。

IVI業務シナリオ(設備間でデータ形式がそろえば・・・)

異なる拠点、異なる企業、異なる現場間で、業務のやりかたがある程度そろうと、そこで扱うデータの形式をそろえることができます。逆にいえば、データ形式がそろうと、これまでになかったような新しい業務のつながりが生まれます。まず、設備間でデータ形式がそろうと、以下のような業務シナリオが描けます。


サイバーフィジカルな生産システム


IVI業務シナリオ(工程間でデータ形式がそろえば・・・)

同様にして、工程間でデータ形式がそろえば、以下のような業務シナリオが描けます。


サイバーフィジカルな生産システム


IVI業務シナリオ(工場間でデータ形式がそろえば・・・)

さらに、工場をこえて、企業や地域を超えてデータ形式がそろえば、以下のような業務シナリオが描けます。


サイバーフィジカルな生産システム


IVI業務シナリオ(利用者間でデータ形式がそろえば・・・)

最後に、工場で作られたモノあるいはサービスを利用する側についていえば、利用者がそこで発生するデータ、活用するデータの形式がそろうことで、以下のような以下のような業務シナリオが描けます。


サイバーフィジカルな生産システム


サイバーフィジカルな世界の新たな付加価値

もちろん、こうしたしくみは、ICTの信頼性、とくにセキュリティ面でどこまで実用性があるのかについて、明確な指針が提示されている必要があります

100%安全という世界はないものの、どのようなレベルの対応でどのような効果があるか、あるいはセキュリティ上の問題が発生した際に、どのような対応が求められるのかといった点について、ガイドラインやマニュアル等が求められるでしょう。工場内部には、膨大な機密情報があるため、こうした指針にそって、安全サイドからどのような手順でICT化を進めるべきかを、それぞれの実証プロジェクトを通して、明らかにしていくことも、非常に重要な課題として認識しなければなりません。


サイバーフィジカルな生産システム 図 サイバーフィジカルな生産システム