モノゴトを第三者に伝えることは、簡単そうに思えてとても難しいことです。モノなら持ってくる、コトならやって見せる、など最後の手段はあるものの、そうはいかない場合には、モデルを作成します。ファッションモデルも、CADモデルも、数学モデルも、すべて何らかの対象を表現したものであり、その内容を第三者に伝えるとともに、解析や分析などの操作によって、そこから新たな情報やアクションのきっかけを取り出すことができます。
リファレンスモデルは、この意味でいうと、ビジネスの当事者あるいはさまざまなステークホルダに対して、問題の構造を示し、ゲームのルールを示すためのものともいえます。目玉焼きのように、すでに多くのプレイヤーが存在し、そのカテゴリが認知されている場合には、帰納的にそのリファレンスモデルを決定していくことが可能です。しかし、その内容が斬新的な場合や、カテゴリキラー的な場合には、逆に先手を打って、そのパイオニアたちがリファレンスモデルを提示することで、ゲームメーカーになれるのです。
欧米では、すでにものづくりの世界におけるリファレンスモデルが提案されています。ISA-95は、生産管理、在庫管理、品質管理、そして保全管理など、製造オペレーションマネジメントと、経営システム全体との統合を目的としたモデルを定義しています。このリファレンスモデルでは、図1のように、製造業で行われているものづくり全体を鳥瞰し、それを構成する機能要素と、それらをつなぐ情報フローの形でモデル化しています5)。
図1 ISA-95が定義するものづくりのための機能と情報フロー(IEC62264.01)
ものづくりという括りでとらえると、このようにモデルは複雑になり、さらにアクティビティのレベルにまで落とし込むには、膨大で多種多様な現実を一つずつ吟味していくことが必要となります。まさに、気の遠くなる作業です。
スモールシェフの例では、リファレンスモデルが比較的簡単に定義できました。しかし製造業全体を対象とした場合は、そう簡単にはいきません。何が違うのでしょうか? これは、スモールシェフの例は、ボトムアップアプローチであったのに対して、今回はトップダウンであるという点が異なるからです。欧米の世界では、こうしてトップダウン的にモノゴトの枠組みを決めていくのが上手なのです。
ボトムアップにどれだけ効果的なモデルを作成しても、いずれトップダウンで定めた世界のルールに従わざるを得ない領域に到達し、全体最適という大義のもと、トップダウンが全体を制するのです。決して、ボトムアップアプローチを否定するものではありませんが、トップダウン的な視点の欠けたボトムアップは危険なのです。
トップダウンアプローチをうまく取り入れるにはどうすればよいのでしょうか。そこでは、複雑な現実をモデル化するために、さまざまな手法が用いられています。その1つがレベル分けです。ISA-95では、ものづくりの全体を整理するために、4つのレベルを用いてします。つまり、経営管理のレベル、製造現場のレベル、そして制御のレベルを明確に分け、その間のインタフェースを定義することで、それぞれのレベル内でのモデルの複雑性を減らしているのです。同様にして、企画設計のレベル、生産準備のレベル、生産実行のレベル、そして保全や廃棄のレベルといったライフサイクルの視点からもレベル分けが可能です。