「つながる工場」インタビュー4

【4】 日本企業の「強み」とは、どこにあるとお考えでしょうか。その個性を生かしながら、ICTとの融合を進めていくには、どのような視点が大切だと思われますか。

日本の企業の強みというよりは、日本人のものづくりに対する姿勢、価値観だとか、グループで目標を立てて結果を出す際のチームワークといった特質が、最終的に日本の製造業の競争力になっているのだとおもいます。もちろん、そうした特質を引き出し、最終的な製品の品質に落とし込む企業のしくみ、つまり組織力やマネジメント力の成果でもあります。

ただし、日本企業の本当の「強み」とは何かと問われると、実は明快な答えはありません。確かに、現場力だとか、すりあわせの技術など、日本の工場の強みを客観的に議論することは可能です。ただ、実際の現場感覚としては、これまで、日本の国策として製造業で国を豊かにしようという勢いのなかで、1億人の日本人が全員でモノをささえ努力してきた結果、追いつけ、追い越せと日々やってきた団結力、総合力の結果、気が付いたら、ここまで来ちゃった、というのが真実のような気もします。

その点でいえば、ビジョンの共有、社会的なバックアップ体制があったことが日本企業の強みであったともいえます。現在は、多様性の時代、ゆとりの時代、それぞれがそれぞれの価値観のもとに生きていく時代であって、悪く言えば、方向性が見えない時代ともいえるとおもいます。ひとりだけ、違うことをやると目立つし、現状もそこそこ居心地がいいので、保守的な傾向が強まります。ものづくりが、ICTで大きく変わるというのも、「そうかもしれないが、そうでなくあって欲しい」というのが多くの人の本音かもしれません。つまり、かつての強みは今は通用しないということになります。

しかし、だからといって、立ち止まっていえは、すべてを失う可能性があります。どうすれば、ICTを活用したものづくりが拡大していくか。ひとつの取り組みとしては、ものづくりを担う人材、あるいはものづくりにたずさわる人の層を拡大することだとおもいます。つまり、広い意味でのものづくり(関連サービスもふくめた)人工を増やすことです。従来から、工場の現場でものづくりの文化を体現している人に加えて、ICTが生活の一部となっている人びととがその現場に加わり、外部者として格闘しながらその土俵をずらしていくという方法です。

そのためには、一般の人から見たときに、ものづくりが遠い存在、工場の内部で閉じた(3K的な)イメージから、オープンで、デジタルで、クラフト的で楽しい世界に映るように心がけるとともに、ICTでその物理的な距離を近づける必要があるでしょう。3Dプリンターの技術はその意味で非常に重要ですし、シミュレーション技術や、IoT技術が今後、さらに発展し、コストが大幅にさがれば、オフィスにいながら、海外の工場のリアルタイムなオペレーションに実質的に参加することも、決して遠い先の話ではないと思います。