「つながる工場」インタビュー6

【6】 中小企業に向けて、ICTの活用に関するアドバイスや、導入を後押しするメッセージを、お願いいたします。

中小企業にとって、ICTの導入はとてもハードルが高いのは事実です。ひとつの原因は、コストや効果があらかじめ見積れず、またその効果がコストに見合わない場合がおおいという点があります。また、仮にそれなりにコストに見合う仕組みであったとしても、実際に製造業の内部でICT化をすすめていく人財が不足しているという点がネックとなっています。

実際にいろいろな事例をみると、そこでいうICT化は、単なるコンピュータ化だったり、紙の帳票類のデジタル化でしかない場合も多いようです。もしそうだとすれば、まずやるべきことは、ICT化ではなく、情報の流れの見える化です。そして、すでにデータ化、システム化さえている部分があったとしたら、それらのデータの意味づけ(誰から、誰に、何を伝えるためのものか)です。つまり、ものづくりの流れ、業務の流れが、きちんとつながっており、ムダや間違いがないかを検証して欲しいとおもいます。

そしてもし、不合理な部分、非効率な部分があったら、その部分をICT化することで、すこしずつ情報の流れをカイゼンしていくアプローチがおすすめです。もちろん、これはICTベンダーや外部に丸投げすることはできません。ただ、担当者だけでは、何をやったらよいのか分かりませんので、外部のICT人材をもうまく活用し、社内の総点検をすることからはじめましょう。おそらく、いたるところにICT化のネタがころがっているはずです。

特に、肝となるのが、現在および近い将来の見える化と、さまざまなデータの蓄積と活用による付加価値化です。さまざまなデータの蓄積と利活用は、即効性がありしくみも簡単なので説明します。たとえば、工程手順や生産条件のメモ、段取り方法などの写真、お客様からの引き合い、見積り提示の履歴、などなど、情報はどこかにあるが、いざというときに検索できないものが現場にあふれています。これらをデータ化し、検索可能とすることで、現場の作業は格段に楽になり、かつお客様へのサービスレベルも向上します。こうしたデータは、資産として競争力の源泉となるのです。

こうしたデータによる恩恵が得られて、はじめて会社の中で、ICT化の意味、価値が浸透します。この順番が重要で、ICTが先だと、特に中小企業の場合は、拒絶感、抵抗感がさきにでて、挫折し、いちどこうした失敗体験ができると、次にまたはじめるときに大きな障害になります。つまり、ICTという大上段あるいは、過度な期待をせずに、現在の仕事の見える化、業務のカイゼンの延長のなかにICTをうまくとけこませることで、ほんとの意味でのものづくりとICTとの融合が図れるのだとおもいます。

そして、最後に、特に中小製造業は、スケールメリットが出にくい立場にもともといるわけですが、ICTを活用し、つながる工場が前提となった世界では、逆にグローバルに展開する上で大手である必然性はなくなり、小回りのきく中堅、中小製造業の活躍の場は広がります。あたらしい、時代での飛躍のためには、これはあるいみで大きなチャンスといっていいとおもいます。

インダストリー4.0のような大きなコンセプトやムーブメントを的確にとらえると同時に、実際のものづくりの現場を巻き込んだ流れをつくっていくためには、こうした個々の製造業における個別で現実的な問題をひとつずつ解決していき、その過程のなかで、標準化、オープン化のアプローチが有効であることを地道に伝えていくことも重要であるとおもいます。