8. 連携がもたらすメリットとは

「つながる工場」のコンセプトは、工場と工場が、工場を単位としてつながることを目指しているのではありません。こうした工場間の連携は、ICTを効率的に活用しているかどうかはともかくとして、すでに多くの工場が当たり前のように行っています。「つながる工場」では、その工場の内部が、工程間や担当業務間で柔軟につながり、そして、工場という枠を超えて、それぞれの工程や担当業務が、他の工場、他の企業の工程や業務と柔軟につながることを目指しています。

実際のところ、日本の製造業の場合に限って言えば、こうした工程単位での連携は、一部の企業間ですでに実現されているといってよいでしょう。たとえば、カンバン方式は、メーカーとサプライヤーを工程単位でダイレクトにつなぐためのしくみなのです。また、メーカーとサプライヤーが、部品設計の段階から緊密に連携することで、製造プロセスを最適化してきた例も多く存在しています。

したがって、「つながる工場」とは、こうした先進的な日本の製造業の事例でみられるしくみを、ICTという道具を駆使して、より広く多くの製造業に展開することで、わが国全体としてのものづくりの生産性、柔軟性、頑強性を高め、グローバルな競争力をさらに強化していくための取り組みともいえるでしょう。

ただしどうせなら、これまでできていたことを、そのまま展開するだけではなく、できなかったことを含めて、ICTを利用して新たにできるようにしていきたいと思います。さもなければ、近い将来、ICTを駆使した欧米の列強に完全にキャッチアップされ、これまで築いてきた地位を失うことにもなりかねません。では、どのような新たなしくみが可能なのでしょうか?

まず、これまでのサプライチェーンは、モノを介して工場と工場、あるいは工程と工程がつながっていました。サプライヤーの工場から出荷された部品は、メーカーに納品された後、受入検査され、合格品がメーカー側の工程に送られます。ただし、検査にも工数がかかるため、不良品を見逃す可能性も否定できません。

多くのメーカーでは、サプライヤーで生産される部品の品質を担保するために、その生産プロセスや管理プロセスを監査します。あるいはISO9000シリーズなどの国際標準にもとづき認証機関に監査を委託します。サプライヤーから送られるモノを一品ずつ品質検査するのとあわせて、それらのモノを生み出すプロセスの品質を担保するという発想です。



図2 情報連携のレベルの違い

ここにIoT(モノのインターネット)技術が加わるとどうなるでしょうか。生産設備やプロセスの監査の時点では問題がなくても、たまたまその部品を生産しているときに、なんらかの異変がおきているかもしれません。そうした個別の状況を、データを用いて常にモニタリングすることで察知することが可能となります。つまり、たとえサプライヤーなど企業を超えた関係であっても、規定されたプロセスや納品されるモノで品質を保証すると同時に、さらにそのプロセスを実施する際に得られたデータを用いて、個別のロットのレベルで品質を保証することができるようになります。

これは、サプライヤー側、あるいは中小製造業側にとってもメリットがあります。顧客である納入先の生産プロセスと自社の生産プロセスが、たとえば日程計画上でダイレクトにつながれば、必要以上の在庫をもつ必要がなくなります。また、品質に関する不確定要素がなくなると同時に、トレーサビリティが向上するため、発注側からの安定的な受注につなげることができるはずです。さらに、小ロットで受注設計生産を行う場合など、工程情報をあらかじめデジタル化し、実績をデータによって管理しておくことで、見積工数と見積精度が大幅にカイゼンされ、より利益率の高いビジネスモデルにシフトすることも可能となるでしょう。

工場を超え、企業の枠を超えて、生産プロセスをつなげることができるようになったとしても、必ずしも自社の生産プロセスをすべてオープンにする必要はありません。誰に対して、どの部分を、どこまでオープンにするかは、それぞれの生産プロセスをもつ側が決定します。時々刻々得られる生産に関するデータを、サプライチェーンの強化、販売力や収益力の強化にどのように使うかはまさに企業の経営戦略の一部です。こうしたデータは、活用のしかたによって、企業の競争力につながる付加価値の源泉となり得るのです。