【2】 IoTを推進し、「つながる工場」を実現することで、具体的にどのようなメリットや、生産現場の変革を期待することができるのでしょうか。従来の「日本的なものづくり」と比較した場合、大きくどのような点が異なるのでしょうか。
「つながる工場」が目指すものは、工場と工場がつながるだけではなく、工場の内部を構成していた生産ラインや現場でスキルをもった技能者、そしてさまざまな管理業務や技術、アイデアが、時間的あるいは場所的な制約を超えてつながる姿です。また、「つながる工場」によって、工場でつくった部品や製品を使う最終消費者と、生産現場とがつながり、つくり手の気持ちと、使い手の気持ちまでもがつながります。
こうした「つながる工場」を実現するには、IoTなどの新しい技術を積極的に取り込むことも重要ですが、その前提として、生産プロセスのオープン化、工場の内部のオープン化が欠かせません。まさに胸襟を開いて、相手と接することで、その先の新たな信頼関係が構築できるのです。たとえば、中小製造業のコマ対戦がここ数年とても盛り上がっています。共通のルールのもとで、それぞれの町工場が、切削加工、表面処理、素材の改良などに挑みます。プロセスをオープンにすることで、いい意味での競争が生まれ、技術が進歩し、そしてそれを目当てとした需要が喚起されます。
インダストリー4.0では、生産ラインの自動化、機械そのものの知能化がシンボリックに取り上げられることが多いのは事実ですが、自動化、知能化はあくまで人の置き換えでしかありません。工場を経営する立場からすれば、結果的に高コストとなり、それが存続できる領域は限定されることになるでしょう。おそらくインダストリー4.0の本質は、ものづくりの組織における人を含めた自律的な業務の連携、ものづくりの知識や知恵の効果的な生成と活用において、データの持つ役割が革命的に変化するという点だとおもっています。
つまり、ものづくりが今後ますます複雑化していくなかで、これまでデータは意思決定のための脇役であったものが、もはやデータがなければ意思決定ができない状況になるのです。たとえば、スマホを常時持ち歩いている高校生は、もはやスマホなしには友達関係も築けなくなりつつあるのと同じことがものづくりの世界で起きると思ってください。
ただし、だからといって、日本的なものづくりを変える必要はないし、変わらなければならない理由もありません。ただ、必要なデータを必要なときに得られない場合、つまり、つながるチカラがよわい会社や現場は、おそらく相当苦労するであろうということに、多くの責任ある立場の人びとができるだけ早く気付き、対応をとっておく必要がありそうです。