提言1「つながる工場」

2. 「つながる工場」とは

新しいコンセプトとしての日本的な「つながる工場」について説明するために、3つの仮想シナリオを紹介する。まず、シナリオ1は、最終製品を製造するニッチトップ企業のモデルである。

シナリオ1

2018年、法政工業(仮称)は、東京オリンピック&パラレンピック開催に向けて開発した障がい者用補助具を発表。3Dプリンタと一部金属部品を組み込んだ製造工程は非常に複雑で月産10台程度を予定したものであった。これが北欧のメディアで紹介され、2022年の時点で月産2000台の生産体制に段階的に事業を拡大。製造コミュニティプラットフォームを活用し、自社工場を福島県に建設するまでの間をネットワーク型ファブ方式で投資コストとリスクを押さえつつ対応した。

いわゆる3Dプリンタは、小ロットで繰り返しのない注文に向いており、量産の場合はそれに対応した工場の設備投資を行ったほうが1個あたりのコストが安くなる。問題はその中間の状態であり、ニッチトップ企業が必ず通過するプロセスともいえる。こうした中間的な生産ロットの場合の製造委託のしくみとして「つながる工場」が利用できる。

一方、以下のシナリオ2は、サポートインダストリー(サポイン)企業の例である。

シナリオ2

法政精密(仮称)は、大手素材メーカーとの共同開発プログラムに応募し新複合素材の難加工技術を確立した。第三者による技術評価指標と知財管理により、その後は安定的に加工注文が得られるとともに、製造コミュニティプラットフォームを介した新規引き合いが増え、海外からの注文も飛躍的に伸びていった。量産または繰り返し型の注文もあったが、同社は規模拡大をせず、それらをライセンス供与する一方で、新たな加工技術の開発に常に経営資源を集中させている。

中小企業の高い加工技術が、大手製造業の製造プロセスの一部を支えていることは周知のとおりであるが、こうしたマッチングを図るのみではなく、そこでの健全は取引と技術評価と知財管理をしくみとして保証することで、さらなる飛躍が見込まれる。また、物流や通関等の機能とも連携することで、海外からの受注増加も期待できる。

そして、最後の例は、まったく新しいタイプの製造サービス企業のイメージである。

シナリオ3

機械加工を得意とする受託製造サービス大手のホーセイ(仮称)は、2025年の現在で国内3位となる。2014年当時にEMS(電子機器受託製造サービス)事業を大幅に縮小し、機械加工および樹脂製品にシフトした。工程管理を徹底的に標準化するとともに、比較的コストの安いプレス+板金加工と溶接ロボットの組合せで合理化、1個作りから月産5,000個までをこなす。主力は電気自動車の内装部品で、顧客の生産管理システムとクラウド上で連動し1日2便電子かんばんで納入している。

エレクトロニクスの進歩により、メカ要素がどんどんエレキやソフトに置き換えられ、それらがICチップ化、プリント基板化され、EMS企業に外部委託できるようになった。しかし一方で、すりあわせ型のモノづくりが必要なメカ要素は依然として存在し、こうした欧米的発想の製造サービスとはなり得ていない。そうした部分を効率よく高品質に行なうのは、我が国の製造業の得意とするところであり、これが明日の製造ビジネスのキラーコンテンツとなる可能性は大いにある。

「つながる工場」の特徴は、モノをつくるプロセスが企業を超えて相互に連携することである。これまでのサプライチェーンでは、多くの場合、異なる企業間での取引として、モノを介した売り買いの関係でつながっていた。これに対して、製造プロセスがダイレクトに連携するようになると、素材、部品、モジュール品、そして製品といった定型的な単位での取引のみではなく、中間品や仕掛品といった単位でのやりとりや、製造プロセスを部分的に委託する形態がこれまで以上に柔軟に実現する。

こうした製造プロセスの外部委託は、いわゆる製造業の下請けとして、中小企業、小規模企業が担ってきたという歴史がある。そこでは、価格決定権は委託側にあり、製造プロセスを決定し、評価するのも委託側であった。これに対して、「つながる工場」では、対等な立場で、あるいは場合によって受託側が優位な立場でサプライチェーンを構成する。これにより、高度な加工技術、きめ細かな生産準備、素材技術や要素技術をもった企業が、よりその技術を磨くことに専念できる。また、今後ますます増える多種多様な製品化ニーズ、個別の顧客要求に対応して、設計と製造が企業の壁をこえて一体となったモノづくりが実現する。