「つながる工場」は、現在の工場が単独で業務改革、あるいは技術革新をすることで実現するものではない。これは工場内の問題であると同時に、工場間の問題であり、さらにいえば、それらの業種、業態のことなる工場をふくめた広い意味での“生産システム”の変革が必要となる。したがって、個々の要素技術もさることながら、統合化技術、システム化技術の新たな進展が求められる。
すでにICTがモノとモノをつなぎ、その気にさえなれば、膨大な数のモノの状態や動きを、インターネットを介してデータとして入手可能となった。一方で、そうしたビックデーターを、情報として意思決定に利用するには、多くの技術的課題が残されている。特に、モノづくりの場合、加工や組み立てなどのプロセスによって、モノの形態が変化しつつ広域で移動する。したがって、装置や機械など生産ラインの構成要素の統合的モデリング技術や、生産対象のサイバー&フィジカルなトレース技術、あるいはバーチャルとリアルを統合したシミュレーション技術、個別設計生産における企業をまたぐ型統合CAD/CAM/CAEなど、多くの技術的なチャレンジが必要となる。
また、これまでは企業内部で完結していたエンジニアリングチェーンに関する製造プロセス連携を、工場および企業を超えて可能とするために、生産システムを技術的、工学的な視点のみからモデル化するだけでなく、1つの経営システムとして、技術情報と顧客価値の両方の観点から、品質、コスト、納期といった管理技術の視点を含めてモデル化する技術も要求される。「つながる工場」を可能とする製造業のリファレンスモデルの開発、企業間での生産システム相互連携のための技術情報の交換方式、物流、商流、および情報ネットワークインフラの設計、エネルギーや環境負荷に関する可視化技術、製造情報とフィールドサービス情報との高次元での連携技術、そして、自律型企業グループによるエンジニアリングチェーン、デマンド・サプライチェーンの最適化技術なども新たな研究課題となる。
特に、日本機械学会生産システム部門の中で取り組むべき課題として、図2に示すように、生産設備や生産ラインを効率よくフレキシブルに活用し製造を実行するMES(Manufacturing Execution System)と、製造現場の生産技術および管理技術として、実際の製造と、それを支える設備や作業者やさまざまな規約、標準ルールなどを含め、最終的な品質、コスト、納入を保証するMOM(Manufacturing Operations Management)の統合モデルがある。
ここで、MESを構成する技術情報は、工程設計、生産技術、そして生産準備といったエンジニアリングチェーンを介して、製造現場と一体となって生成され管理される。技術者、技能者による形式知と暗黙知が混然一体となった製造現場をまず受け入れた上で、それを起点とした新しい概念に基づいたモデリングを行なう必要がある。日本的な「つながる工場」を実現する上で、こうしたモデルが、新しい製造業を議論する上での中核となり、連携のための共通言語として大いに機能すると予想される。
生産システム部門では、生産システムの新しい学問領域として、こうした統合モデルを対象として2014年度に研究分科会を立ち上げ、海外の動向も含めて課題の整理と、技術開発のためのロードマップを明らかにしていく予定である。
図 製造オペレーション管理のフレームワーク