IoTとは、身の回りのあらゆるモノが、インターネットにつながっている状態を指す。ネット上でモノを識別するためのアドレスが事実上無限に用意され、さらにはデジタル技術の進歩とデバイス価格の低下により、そうした状態に移行する準備が整いつつある。ネット上に広がるデジタルな世界と、人々が生活する現実の世界を一体化させることで、今まで想像もできなかった世界がやってくる。ドイツ政府が、国の政策として進める「インダストリー4.0」は、第4次産業革命という刺激的なネーミングもあり、多くの関心を集めている。ただし、自動化技術やネットワーク技術で今よりも多様なものづくりを、さらに効率よくできるということは理解できても、あくまでそれは、現在と比較した段階的なものである。それは本当に革命的なことといってよいのか。
本質を見誤らないためのキーワードは「サービス」である。ここでは、経済的に取引可能な「コト」をサービスと呼ぶことにする。わが国の国内総生産(GDP)の7割を占めるサービス業は、文字通りこのサービスを取り扱う。近年は、製造業がサービス業化を志向しているといわれ、「モノ」を販売していた製造業が「コト」を販売し始めた。背景には、物理的なモノの取引の拡大だけでは、もはや企業の成長を支えることができないという現実がある。
一般的にサービスの生産性が相対的に低いのは、その同時性と不可分性による。つまり、サービスを提供する人と受ける人は原則として、同じ時に、同じ場所にいる必要がある。サービスを大量生産し、それを在庫しておき、必要な時に必要な場所に運ぶことはできなかった。IoTがもたらす世界が驚異的なのは、そうしたサービスの基本的な制約を、一気に破壊する可能性を持つからである。