「つながる工場」インタビュー3

【3】 例えば、中小企業のものづくりとICTが融合した例として、どのようなケースがあるのでしょうか。その内容や成果、あるいは表面化した課題について、お聞かせください。

生産現場のICT化、あるいはものづくりとICTの融合の結果として、どのような姿が望ましいかについて、おそらくまだ、当事者も、支援する側も、共通の合意にいたってはいない気がします。特に中小企業の場合、それぞれの現場がもっている主体性や小回りのよさ、そして何年にもわたって作り続けることによるノウハウの蓄積などをICT化することはそう簡単ではありませんし、そうすべきかどうかもまだ議論の余地があります。

キラリと光る部分をもった中小企業がある一方で、きわめて生産性の低く、管理レベルについても、お世辞にもほめられない膨大な数の中小企業が存在しているのも事実です。整理整頓などの5Sはもとより、ICT化の話を持ち出す前に、そこに至るまでにやるべきことがやまほどあるのが現状です。生産技術や加工技術に優れた企業だからといって、ICT化がスムーズに進む保証はまったくありません。

優れた中小製造業が、ICTを利活用した画期的な企業になるプロセスを何社か支援したことがあります。それらの企業は、たとえば、生産管理のしくみによって、これまでいったい今何がどうなっているのかわからなかった現場が、ICT化によって見える化され、事務工数も半減し、実際に売り上げも大幅に伸びました(1社はものづくり大賞の特別賞、もう一社は認定企業として表彰)。ただ、私が強調したいのは、こうした結果ではなく、そこに至る紆余曲折の中で、日頃はあまり考えてこなかった業務プロセスや他の業務との連携を議論し、実際にいろいろ変えながら最終形にいたったという過程の部分です。つまり、ICT化された結果としてのシステムではなく、ICTという道具を使いこなすために組織そのものが学習し、すこしずつ変わっっていったというプロセスが重要で、それによって強い体質ができていったのだと思っています。(このあたりは、日刊工業新聞社の工場管理という雑誌に2013年4月から12か月間の連載記事がありますので、よろしければ送ります。)

このような事例は、やはり一部の意識の高い中小企業にかぎられ、財務的にも人財的にもめぐまれた会社に限られるということもあるとおもいます。おなじやりかたが、他のごく普通の中小企業に適用できるとはおもっていません。そこで、現在、「つながる町工場」というプロジェクトをやっています。これは、板金加工を得意とする同業者が3社あつまり、それぞれの生産プロセスや業務プロセスをお互いにオープンに見せ合って、共通点と相違点を見極め、共同で業務ソフトウェアをクラウド上で構築しようというものです。同業ですので、競合する部分も若干ありますが、それよりも、相互に切磋琢磨して、お互いにいい部分を学習する場として、月に2回以上の会合を開いています。

このプロジェクトでは、開始から3カ月後に業務ソフトウェアは完成し、現在は、実際の生産工程を登録し、受注内容や個別の業務データをシステム上で運用しながら、すこしずつ問題点をあきらかにしている段階です。参加企業は、お互いに入力されたデータや、業務の進め方をみながら、自分の会社の業務を日々カイゼンしています。こうした取り組みによって、およそ6割の業務プロセスは共通化でき、残りの2割は個別にカスタマイズし、後の2割は人間系で対応するという形になりそうです。つまり、ICTを活用しながら、それぞれの個別の仕事のしかたや生産のノウハウは固有なまま相互に連携することができるという事例です。

おそらく、板金以外の分野にも、こうしたアプローチは有効でしょう。そして、こうした取り組みをとおして、ものづくりのテンプレート(これをリファレンスモデルと呼んでいます)が増えていき、それによって、ソフトウェアを提供するベンダーやSI企業も、より安価で効果的なツールやインフラを提供することになると期待できます。実は、この取り組みは、リファレンスモデルをもちいた「つながる工場」のひとつの典型例なのです。