提言2 「イニシアチブ」の勧め

この提言は、日本機械学会生産システム部門「つながる工場」研究分科会が、2015年3月にまとめた中間報告”Industrial Value Chain Initiative 「つながる工場」によるつながるものづくり”を再掲載したものです。

1. はじめに

ものづくりをとりまく環境が、めまぐるしく変わろうとしています。ドイツ政府が主導するインダストリー4.0 1)がひとつのきっかけともなり、全世界的な規模で、ものづくりとICTの融合による新しい時代を目指して、企業の垣根を超えたさまざまな活動がはじまりました。日本国内でも、日本機械学会生産システム部門の呼びかけにより、平成26年6月に、産学官の有志による提言が公開され2)、ものづくり大国である日本の製造業も、徐々にその進むべき方向性を、いったんものづくりの原点にまで立ち返って、根本から見直そうという機運がたかまっています。

この小論は、前述の提言を受けて日本機械学会内で設置された“インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会(P-SCD386)”(略称「つながる工場」研究分科会)の活動の中間とりまとめとして、これまでの議論の成果を、できるだけ多くの関係者にご理解いただけるような解説書としてまとめたものです。研究分科会は、平成28年2月の終了までまだしばらく期間を残していますが、世の中の流れがはるかに早いため、予定を大幅に早めて、具体的なアクションの提案をしていくことになりました。

「つながる工場」研究分科会は、日本を代表する製造業において、その中長期ビジョンを策定する責任者や実務家、情報サービス産業やICTの新しい展開を模索する企業の戦略スタッフ、生産工学、情報工学、経営学など、各分野で活躍するアカデミア、そして各省庁にて政策立案に携わる担当官などをメンバーとして、まさに産学官の垣根をこえた活動をしています。この貴重な場を、単なる意見交換、あるいは現状調査で終わらせるのではなく、未来へ向けたアクションに関するベクトルを合わせるための場としていければと考えています。

日本人は、大きなコンセプトを他に先駆けて提案することが苦手であるとよく言われます。前例がないと、なかなか前に進めないという傾向や、出る杭は打たれる的な文化が未だに根強いのは事実です。しかし、そうだとしても、ごく一部の有志グループに限定されてでもよいので、そろそろ、他にさきがけてリーダーシップを発揮し、あたらしいものづくりの世界でイニシアチブをとってもいいのではないかと思います。

だとしたら、何をどうすればよいのか? 日本の製造業はどう変わればよいのか? 小論はこの問いに対して、「つながる工場」というキーワードを手掛かりに、研究分科会での活動を踏まえ探しあてた1つの方向性をまとめたものです。研究分科会の後半は、おそらくここで述べられている内容を具体化し、現実のプロジェクトとして社会に実装していくことに重きが置かれることになるでしょう。そしてその流れは、最終的には、研究分科会から生まれた新しい組織に引き継がれることが理想です。

この小論が対象とする読者は、生産システムに関する専門家だけではなく、工場のマネージャ、関連業務のマネージャ、中小企業経営者、および製造業以外の業種(たとえばICT企業)の管理者、技術者、製造業支援コンサルタント、大学等の研究者、政策立案者、などです。できれば、これまでものづくりにはあまり関心がなかった人に読んでいただき、ものづくりの世界をより身近なものと感じてもらいたいと思います。ものづくりとICTが融合することで、ものづくりから派生した、さまざまな“かっこいい(クールな)”世界が広がることを、そしてそうした人々がイメージできたとしたら、この小論は、十分な価値があるといってよいかもしれません。